THE GENTLE DRAGON

 

 

 

EPISODE18  「PARTINGS」

 



 今回のお話は、第8シーズン第10話『クリスマスはわが家で I’LL BE HOME FOR CHRISTMAS 』と第20話『手紙  THE LETTER』の内容を含んでいます。ご注意くださいm(_ _)m

 

 

SCENE1
 「ベントン先生!」
「おう、リュウ」
「お会いできてよかった……。もう行ってしまわれるんですね」
「ああ……ここでの勤務は、たった今終わった」
「いろいろお世話になって……どうもありがとうございました。先生に教わったこと、僕、一生忘れません。でも、もう教えていただけないのかと思うと、とても残念です。……父もきっと、先生とお別れするのを残念がってると思います」
「……お前のパパは、俺のことをそんなふうには思ってくれちゃいないさ」
「いいえ……僕は医者になる時に、父に『ピーターとリジーを手本にしろ。あいつらは一流だ』って言われました」
「…………」
「先生、お元気で……」
「リュウも元気でな。がんばって『すご腕の外科医』になれよ……パパによろしく……」



SCENE2
 ベントンと別れた日の夜、リュウイチは誰もいない医学部のホールでピアノを弾いていた。入学式や卒業式などのイベントの時に、ボランティアで演奏するという条件で、ピアノを自由に使う許可をもらっているのだ。2歳の時にピアノを始めたせいか、リュウイチにとってピアノを弾くことは、生活の一部になっており、感情表現の手段といっても過言ではない。医学部の学生だったころから現在に至るまで、時間を見つけては、リュウイチはピアノを弾いてきた。喜び、悲しみ、怒り……リュウイチのいろいろな思いを、ホールのピアノはすべて知っていたのである。

 リュウイチがピアノを弾き始めてから20分くらいしたころ、ホールの扉が静かに開いて、ロマノが入ってきた。リュウイチはまったく気付かず、ピアノに没頭している。ロマノは、ホールの端の方のいすに座ると目を閉じた。彼には、流れてくる音のひとつひとつに込められたリュウイチの気持ちが、手に取るようにわかっていた。彼もまた、自分の胸に同じ思いを抱いていたからである……。



SCENE3
 リュウイチが、リンゴをかじりながらERの受付にやってきた。
「アビーさん、今朝ERに運ばれてきた交通事故の患者、今オペが終わったところなんですけど、命をとりとめましたよ」
「それはよかったわ」
リュウイチはうれしそうに、リンゴをかじりながら掲示板の方へ歩いていった。
「あ!グリーン先生からの手紙だ。……ERギャングどもへ?ふふ、ギャングかあ……」

 リュウイチの目が大きく見開かれた。リンゴを握った右手がゆっくりと下がっていく。プシャッ!という音がして、リンゴが握りつぶされた。汁がぽたぽたと指先から流れ落ちる……。

 「60歳の男性、自宅の階段から転落、意識喪失、あと3分で到着!」
「僕が行きます!」
リュウイチは全速力で廊下を駆けて行った……。



SCENE4
 ロマノは、交通事故でERに運び込まれ、偶然横紋筋肉腫が発見された、メリッサという少女の手術をしていた。オペ室のドアが開き、リュウイチが入って来る。
「アシストさせてください」
「腫瘍が胸郭に入り込んでるから、徹夜になるぞ」
「はい」
「よし、手伝え」
「ありがとうございます」



SCENE5
 『ラバーラウンジ』で、スーザン、アビー、ヘレエ、ガラント、ルカの5人は、グリーンを偲んで飲んでいたが、そこへウィーバーとロペスがやってきた。
「リュウは来てないの?スーザン」
「誘ったんだけど、パパのオペを手伝うって」
「彼らしいわ」
「何だか今日は、がむしゃらに働いてたわね、リュウ」
「リュウは小さいころからマークになついてたから……」



SCENE6
 昼過ぎにスーザンが屋上に上がると、そこにはリュウイチがいた。スーザンの姿を見て、あわてて涙をぬぐい、照れくさそうに笑う。
「働いていないと、涙が出てきてしまって……。午後からも働こうと思ってたんですが、パパが『家に帰って寝ろ』って言うもんだから……」
「ずっと働き続けるわけにはいかないわよ」
「僕、パパみたいなすご腕の外科医になりたくて医者になったんですけど、ERでの目標はグリーン先生だったんです。ああいうドクターになれたらいいなってずっと思ってました。グリーン先生がいて、励ましたり、叱ったりしてくれる。それは永遠に続くと……先生の最後のシフトの日、僕は夜勤だったんです。帰る先生とちょうど入れ替わりで……あいさつをしたら、『がんばって、リュウ』って言いながら、小さいころみたいに僕の頭をぽんぽんって……それが最後になるなんて……メリッサはほんとに偶然に悪性腫瘍が発見されて……でも、グリーン先生は、あんなに毎日大勢の人の命を助けてたのに、手遅れになるまで自分の腫瘍には気付かなかった……めぐりあわせとか運命とかじゃ僕は納得できない。ずっと生きててほしかった。僕は、先生がここにいないことがくやしくてたまらない。グリーン先生がもういないなんて、絶対にがまんできないんだ!」
リュウイチは堰を切ったように号泣し始めた。

 「……リュウ……」
スーザンは思わずリュウイチを抱きしめた。リュウイチが今言ったことと同じことを、スーザン自身が今朝、ラウンジでカーターに言ったのだった。
「リュウ、私もよ。マークが死んで、とってもくやしいわ」

 ふたりは抱き合って、10分くらい泣いていたが、やがてどちらともなく離れ、顔を手でこすった。
「こういうとき、普通は男が『僕の胸で泣いてもいいよ』って言って女の人を泣かせてあげるもんですよね……僕は泣かせてもらっちゃって……すみません……ああ恥ずかしい」
「私は一緒に泣いてもらって、とってもうれしかったわ」
「ほんとですか?よかった……僕泣き虫で、自分でもいやになっちゃうんです」
「リュウはかわいいから、泣き虫でも許されるわよ」






EPISODE19 「TIES」 へ続く

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