THE GENTLE DRAGON

 

 

 

EPISODE14  「AN ASSIST」

 



SCENE1
 その日は、長距離バスと路線バスが正面衝突し、他の通行車両多数をも巻き込んでの大事故となり、ERに多数のけが人が搬送されてきた。

 「おいおい、どこの馬鹿だ?こんな大事故を引き起こしたのは!おかげで、私までERに借り出されたぞ……なんでこんなにたくさん患者が搬送されてきてるんだ?」
「マーシーのERが閉鎖されたんです!ロバート!外傷1号に行ってちょうだい!」
「ケリーめ、まったく人使いの荒い……」



SCENE2
 ロマノが外傷一号に入ると、そこではリュウイチとアビー、救急隊員が患者を治療台に移したところだった。
「なんだお前か、リュウ。しっかり働け」
「はい」
「……胸部、腹部の打撲……」
ロマノは患者の胸に聴診器をあてた。
「……右側呼吸音良好……左側呼吸音なし……」
チェスト・チューブを入れるように指示しようとしたとき、
「チェスト・チューブセットをください」
とリュウイチが言った。アビーからセットを受け取ったリュウイチは、手際よく処置をし始める。ロマノは腹部をエコーを使って調べながら、ちらちらとリュウイチの行動を観察した。リュウイチはセントラルラインを入れて輸血を始め、気管内チューブを挿管し、アビーにバッグするように頼んだ。
「腹部の出血は大したことはないな。たぶん脾臓が少し損傷してる……」
先ほどの胸部の触診で、左肋骨骨折が認められ、チューブからの出血も1リットル近いので、おそらく心臓が折れた肋骨によって損傷しているのだろう。開胸しなければならないと考えながらロマノが目をやると、リュウイチが開胸の準備を始めていた。

 開胸してみるとやはり、折れた肋骨が心臓を傷つけている。ロマノは慎重に心臓を肋骨から離した。リュウイチがそれを受け取り、ロマノが縫合し終えるまで、指で2か所の傷を押さえていた。
「よし、終わったぞ。外科を呼んで、オペ室へ連れて行くように言え」

 患者が運び出されると、入れ替わりにまた患者が運び込まれた。
「次は何だ?……右大腿部の開放骨折か……こりゃひどい……いかん、足首の脈がないぞ……」
 
 大腿骨折の患者も手際よく処置されて、オペルームへ運ばれた。すると、また入れ替わりに患者が運ばれてきた。
「……次から次へと、まったく……」

 「……おいおい、またか……」

 「……これで5人目だぞ。いったい何人来れば気がすむんだ……」

 5人目が運び出され、6人目が運び入れられたとき、とうとうロマノがどなった。
「おい!リュウ!あと何人いるのか、ちょっと見て来い!」

 「ウィーバー先生が、『重傷患者は外傷1号に運んでちょうだい!ロマノ親子がいるから!』って叫んでました」
「くそっ!やっぱり、ケリーの陰謀だったんだな!」



SCENE3
 ガウンとグローブを脱ぎ捨てたロマノは、目をこすった。
「結局8人か……ケリーのやつ!」
ロマノのポケベルが鳴った。
「ERでさんざんこき使われて、オペルームに直行か。何て今日は楽しい日なんだ……」
「パパ行ってらっしゃい。気をつけてね。僕は今日はER勤務だから、ちょっと休憩します」



SCENE4
 「痛いよ!パパ!耳を引っ張るのはやめてよ!」
「おい、ケリー」
「あら、ロバート。お疲れ様」
「何がお疲れ様だ。君が『重傷患者は外傷1号へ』って怒鳴ってたのが聞こえたぞ。うちの馬鹿息子、今日は外科で勤務させるからな」
「ええ、ERの方はもう峠は越えたから、問題ないわ」
「よし、リュウ。リジーのオペをアシストしろ」
「わかったから、耳を離して!」

 「かわいそうに……」
言いながらアビーがふきだした。
「お疲れ様、アビー」
「重傷患者が8人も来て大変だったわ。でもあのふたり、処置がすごく早いの。もう、あっという間よ。驚いちゃった。器具を渡すのが大変だったけど……」
「私の読みが当たったわね。これからもこの手でいくわ」



SCENE5
 ある日のこと、ロマノはアンスポーに呼び止められた。
「昨日、君の息子にオペをアシストしてもらったんだが……」
「あいつ、何かへまをやりましたか?」
「いやいや、その逆だ。非常にオペがやりやすかった。指示する前に、さっと手が出るんだ。おかげで時間もずいぶん短縮できて、よかったよ」
「そうですか……」
「君もやりやすいだろう?」
「……私は、まだ息子にアシストをさせたことがないので……」
「なぜだ?」
「まだ半人前ですし……」
「もうあれは1人前だぞ。いや、1人前以上かもしれんな。父親として、息子に対して厳しくなるのはわかるが、認めるところは、きちんと認めてやるべきじゃないのか……」



SCENE6
 「おい、リジー、ピーター、ちょっと聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「うちの息子のオペのアシストは、どんな感じだ?私に遠慮しないで、はっきり言ってくれ」
「とってもやりやすいわ。何も言わなくても、ちゃんと、して欲しいことをやってくれるの」
「私も同じです。それに速くてうまい。これはERでも助かってます」
「私とピーターだけじゃないわ。他の外科医の間でも、リュウのアシストは好評だし、ERでもリュウの評価は高いのよ」



SCENE7
 「おい、リュウ。今日は私のオペのアシストをしろ」
「はいっ!」

 「患者は交通事故による腹部打撲。脾臓摘出と、肝臓損傷の修復を行う」
「よろしくお願いします」

 やはり指示をしなくても、リュウイチはきちんとアシストをする。スピードも速いし技術も確かだ。特に左手の動きがスムーズで、右手と変わらない。
『……そうか!ピアノのおかげで左手があんなに動くのか……そういえば、右でも左でも字が書けるとか言ってたな……それに指が長い。これは外科医としては得だな……」

 「肝臓の出血がひどい。Pringle手技をやるぞ」
「はい」

 手術は無事に終わり、しかも、普段の7割の時間しかかからなかった。
「リュウ、よくやった」
「……」
「なにをぼーっとしてるんだ。せっかくほめてやったのに」
「……ありがとうございます!」
リュウイチがとびきりの笑顔をみせる。
 オペルームから飛び出して行くリュウイチの背中に、ロマノが声をかける。
「調子に乗るな!」
廊下でリュウイチは、ガッツ・ポーズをきめた……。


 

EPISODE15 「A RESCUE」 へ続く

トップページへ