ＴＨＥ　ＧＥＮＴＬＥ　ＤＲＡＧＯＮ

ＳＩＤＥ　ＳＴＯＲＹ　５４　　「Ａ　ＨＯＳＴＡＧＥ」　　

ＳＣＥＮＥ１
　「シャーロット・フレッカー、４歳。入院していたメリー病院小児科から失踪」
シャーロットの写真が、オフィスのホワイトボードにはられる。
「ダニーとマーティンは病院、サマンサとビビアンは母親をあたってくれ」
ジャックの言葉に、スタッフたちがいっせいに立ち上がった。




ＳＣＥＮＥ２
　「あ！……ほら、シャーロットや」
病院の防犯ビデオを見ていたダニーが、マーティンをふりかえる。
「抱いてるのはドクターかな？手術着にマスク」
マーティンの言葉に、看護師がかぶりをふった。
「小児科のスタッフじゃありません。背格好にあてはまる人がいないので」
「他の科の人間か、それとも外部の人間が変装しとんのか。どっちにしても、こいつがシャーロットを連れ出したのはまちがいない」




ＳＣＥＮＥ３
　「どうしてシャーロットが……明日退院だったのに」
自宅アパートのソファーで、母親のへスターが顔をおおう。隣に座ったビビアンが、やさしく肩を抱いた。サマンサは、かみしめていたくちびるを開いた。
「ご家族は？」
「私とあの子のふたり暮しです。夫のロイドとは去年別れたので」
「立ち入ったことをお聞きしますが、離婚の原因は？」
「あの人のアルコール依存症のせいです。経営していた小さなクリーニング店が２年前につぶれてから、お酒におぼれるようになって」
「お嬢ちゃんとは会ってるんですか？」
「ええ、ときどき……月に１度くらいかしら」
「居場所はわかりますか？」
「……彼をうたがってるの？」
ビビアンとサマンサは顔を見合わせた。ビビアンが、ヘスターの手に自分の手をそっと重ねて言った。
「どんな小さな手がかりも見逃したくないんです」




ＳＣＥＮＥ４
　「うわ、きたない部屋やな」
ロイドのアパートにやってきたダニーが、顔をしかめる。
「アルコール依存症は治ってなさそうだね」
マーティンはそこら中にころがっている酒びんをながめた。
「冷蔵庫もからっぽやし、シーツも真っ黒けやし、女はおらんみたいやな」
「外で会ってるのかも」
「デートするより、酒飲むほうがええんとちがうか」
あちこちをさぐっていたダニーが、１枚の写真を見つけ出した。マーティンがのぞきこむ。そこには幸せそうにほほえむ、３人の家族が写っていた。ふたりが無言で写真を見つめていると、ダニーの携帯が鳴った。

　「ロイドは飛行機でシカゴへ行ってた」
「シャーロットと？」
「いや。でもあやしいやろ。飛行機に乗る金、どうやって手に入れたんや」




ＳＣＥＮＥ５
　その後へスターに電話がかかってくることもなく、身代金目的の誘拐ではないことは確実となった。またロイドだが、ここ最近仕事もなく、酒びたりの生活が続いていたらしい。その彼がなぜ飛行機のチケット代を持っていたのか、はなはだ疑問だった。

　捜査の進展がないまま、シャーロットの失踪から６時間が過ぎた午後３時前。電話を受けたジャックに、緊張が走った。
「シカゴ警察から連絡が入った。ロイドが病院で銃創の治療を受けて、その後逃走したらしい。ダニー、シカゴへ飛んでくれ」
「了解っす」




ＳＣＥＮＥ６
　ウィーバーがリュウイチをてまねきした。
「なんでしょう、ちゃんと働いてますけど」
「こちらはＦＢＩのテイラー捜査官。あなたに聞きたいことがあるんですって」
「ダニー・テイラーです。どうぞよろしく、ドクター・リュウ」
「こちらこそ」

　ダニーが思わずつぶやく。
「きれいな女医さんや」
「あ、僕は男です」
「……なんやつまらん」
「なにか言いました？」
「いいや……さっそくですが、ロイド・ドレークという男の治療をされましたね。逃走した銃創患者です」
「ええ」
「彼についてちょっと聞きたいんです」
「でも……」
「患者に対して守秘義務があるのはわかってます。でも、緊急事態なんや。彼の４歳になる娘が、ニューヨークの入院先の病院から何者かに誘拐された。ロイドは何か、かかわってるかもしれん」
「……わかりました」
リュウイチはダニーに、ロイドを診察したときのことを話し始めた。




ＳＣＥＮＥ７
　「ええっと……ロイド・ドレークさんですね。右大腿部外側の貫通銃創」
「裏通りでいきなり撃たれて財布をとられた。タクシーに転がりこんで、ここにつれてきてもらったんだ」
「災難でしたね……局部麻酔をうつので、少しちくっとしますよ……」

　「どこかよそからシカゴへ？」
「……ニューヨークからだ。どうして？」
「ここの住人なら、あぶないところは知ってますから」
「人に会いに来たんだ」

　「さあ、おわりましたよ。今、輸血と抗生剤の点滴をしてるので、あと３時間くらいここにいてもらって、順調なら帰ってもいいです」




ＳＣＥＮＥ８
　「３０分後に看護師が、事情聴取の警官と一緒に彼のところへ行ったら、ベッドはもぬけのからでした。点滴の針をひっこぬいて、逃げちゃったんです」
「人に会いに来たって、そう言うてたんやな？」
「ええ……あと、財布をとられたっていうのは、うそだと思います」
「なんで？」
「ジーンズの後のポケットに入ってましたから。治療するときに、見えたんです」

　「かなり出血してたし、痛みもひどかっただろうし、しかもいきなり撃たれたっていうんだから、ふつうはパニックになって当然なんですが、ロイドさんは心ここにあらずって感じで、ちょっと変だなって」
「なにか大きな心配事がほかにあるような感じ？」
「そうです」




ＳＣＥＮＥ９
　ロイドは痛む足を引きずりながら歩いていた。さっき撃ってきたのは、あいつの仲間にちがいなかった。今度出くわしたら、きっと殺されるだろう。こんな命、惜しくもなんともないが、今死ぬわけにはいかない。

　足の痛みが急にひどくなった。たぶん痛み止めがきれたのだ。ずきずきと脈を打っている。痛みにじゃまをされて、考えがうまくまとまらなかった。そうだなにか食べなきゃと、唐突にロイドは思った。朝からなにも口にいれていない。すぐそこにレストランがあった。

　ロイドが中に入ると、客がいっせいに彼を見つめた。どうやら高級レストランと言われる店のひとつらしい。乾いた血がこびりついているジーンズにしわくちゃのシャツ、くたびれた上着をはおった自分などのくるところではなさそうだ。店を出て行こうとしたロイドの目のはしに、カップルがうつった。女はロイドと同じくらいの年で、こちらをみて笑っている。思わずかっとなった。つかつかと歩いていくと上着の内ポケットから拳銃を取り出し、女に突きつけた。
「そんなに俺がおかしいか」
女の顔におびえがはしる。
「いいえ」
「うそだ！俺を見てせせら笑ったぞ」

　ロイドは女の首に銃を突きつけたまま、店の奥へと入った。一番奥のテーブルには、女性ばかり４人が座っていた。
「お前らは動くな……あとのやつらは全員外に出ろ！」




ＳＣＥＮＥ１０
　「もしもし、ＦＢＩ捜査官のダニー・テイラーです。ロイド・ドレークさんですね」
「……そうだ」
ダニーは、ロイドがたてこもっているレストランから１０メートルほど離れたコーヒーショップを対策本部にし、直通電話での説得に着手した。
「人質は何人ですか？」
「５人。全員女だ」
「要求は？」
「まず、マスコミをシャットアウトしろ。報道するな」
「わかった。そのかわり、人質をひとり解放してくれ」
「……いいだろう」
　
　「けがの具合はどうや？」
「……痛みがひどい……痛み止めを……いや、医者をよこしてくれ。入れ替わりに、ひとり解放する」
「了解」
「あ、待て！ＦＢＩや警官が化けたニセ医者じゃたまらんからな。カウンティ・ジェネラルのドクター・リュウをたのむ。彼の顔は知ってるんだ」




ＳＣＥＮＥ１１
　「リュウ、わかってると思うけど、君が痛み止めやとだまして麻酔薬を注射。眠ったところへ突入するから」
「はい」
「それからこれ、盗聴器」
ダニーはペンをリュウイチにわたした。
「へえ、スパイ映画みたい」
ダニーにじろりとにらまれて、リュウイチは首をすくめた。

　「おじゃましまーす」
リュウイチは店の奥へと進んだ。ロイドが女性に銃をつきつけたまま、左手を上げた。
「やあ、ドクター・リュウ。世話になるな」
「いいんですよ。あなたは僕の患者なんですから」

　リュウイチはロイドの傷を調べた。
「傷の方は大丈夫ですけど、痛み止めももらわないで飛び出したりして……輸血も途中だったのに」
「警官を見たんだ」
「だと思った……痛み止めの注射と輸血をしましょう」
「注射はだめだ。麻酔をうたれて眠らされるかもしれないからな」
「大丈夫ですよ。確かにそういう指示は受けてますけど、したがいませんから……じゃあテイラーさん、そういうことですんで……ほら、これ盗聴器なんです」
リュウイチは白衣のポケットからペンを抜き出して、ロイドに見せた。
「ＦＢＩ特製ってやつですよね」
「あのクソガキ！」
ダニーは地団太を踏んだ。

　リュウイチは自分にも痛み止めをうってみせて、ロイドを納得させた。
「どうして俺の味方をするんだ？」
「さっきも言ったでしょう。あなたは僕の患者だって」

　痛み止めが効き始めて、ロイドはほっとした表情になった。
「ロイドさん、相談なんですけれど、僕が人質になりますから、この人たちを解放してあげませんか？」
「…………」
「どこかへ逃げるにしても、人数が多いと行動しにくいでしょう。女性はすぐパニックになって泣き叫んだりするし、やっかいだと思いますけど」
「そうだな…………おい、お前たち。帰っていいぞ」




ＳＣＥＮＥ１２
　血液パックの高さを調節しながら、リュウイチがたずねた。
「会わなきゃいけない人には、会えました？」
「いいや、まだだ。リミットは明日の正午。なんとかしないと」
ロイドはいきなり銃の台座でテーブルをなぐりつけ、髪の毛をかきむしった。
「もしかすると、お子さんが殺されるんじゃないんですか？入院先の病院から誘拐されたんでしょう？あなたは誰かに脅かされてるんだ」

　「昨日の夜、知り合いのチンピラが酒をおごってくれて、頼まれたんだ。これを……」
ロイドは上着の内ポケットから鍵を取り出した。
「シカゴへ持って行けって、住所と名前を書いたメモをわたされた。俺はひとりでしばらく飲んで、店を出たところで知らない男に声をかけられた。倍の金を払うから、鍵をよこせと。そしたらチンピラと撃ち合いになって、男は逃げ出した。今朝家に電話がかかってきたんだ。俺が裏切れないように、シャーロットを誘拐したって。あの子の声も聞かされた。『パパ、助けてって』……。明日の１２時までに鍵をわたさないと、シャーロットは殺されちまう。でも、こっちへ来て相手の家をさがしてたら、いきなり撃たれてこのざまだ。たぶん声をかけてきた男の仲間だと思う。きっと鍵をわたす前に、俺は殺られる。そうなれば、シャーロットも殺されてしまうんだ」
「どうしてそんな仕事を引き受けたんです。あぶない仕事だってわかってたんでしょう？」
「金が……少しでも金がほしかった。俺なんかいつ死んでもかまわない。シャーロットはファロー四徴症で、手術が必要なんだ。でもまさか、あの子が誘拐されるなんて」

　リュウイチはしばらく考え込んでいたが、口を開いた。
「手術の費用は心配しなくても大丈夫です」
「なんだって？」
「シャーロットちゃんのように大きい手術の必要な子どもたちに、治療費を援助する基金がもうすぐできるんですけど、そこからお金がもらえますから」
「そういう基金には審査があるんだろう？」
「大丈夫ですよ。僕がそのスポンサーなので」
「……金持ちなんだな」
「いいえ……僕、暴漢に指をやられて、保険金が１０００万ドルおりたんです。そのお金を、病気で苦しんでる子どもたちのために使おうと思ってて」
ロイドに指を見つめられ、リュウイチはふわりとほほえんだ。
「外科医の仕事にはさしつかえないんですけど、ピアノが前みたいには弾けなくなっちゃって……いちおう弾けることは弾けるので、それでじゅうぶんなんですけどね」




ＳＣＥＮＥ１３
　「手術費用の件はＯＫとして、シャーロットちゃんを助け出さないと。あなたが鍵を相手にわたせたとしても、彼女が無事に帰ってくる保証はどこにもないし」
「…………」
「ちょっと考えがあるんです。うまくいくかどうかわかりませんけど、やってみますね」
「頼む！お願いだ。俺はどうなってもかまわない。あの子を助けてやってくれ！」
「こっから先は、ＦＢＩに聞かれるのはまずいので……じゃあダニーさん、またあとで」
リュウイチはペンを排水溝へ流し、携帯を取り出した。

　「もしもし、シュンさん。お元気ですか？」
「リュウ！俺なら元気だ。お前は？」
「僕も元気ですよ。今ね、ちょっとレストランで人質になってるんですけど」
「……おい！大丈夫なのか？」
「ええ。実はシュンさんにお願いがあるんです」
リュウイチは、シュンタロウに事情を説明した。

　「でね、エドガーさんに頼もうかと思って」
「そうだな。あいつならうまくやるだろう。自分ちに関係があっても、そうでなくても」
「連絡先を教えてもらえませんか？」
「ああ、いいぞ。それからあいつに、ニューヨークの方は俺が手伝ってもいいって言っといてくれ」
「ありがとう！シュンさん！」
「どういたしまして。お前の頼みなら、いつでもお安いご用さ」




ＳＣＥＮＥ１４
　「もしもし、エドガー・フライシュマンさんですか？僕、カウンティ・ジェネラルのリュウイチ・ロマノです」
「ドクター・リュウ！」
「身体の方はその後どうですか？」
「もうすっかり元通りだ。先生のおかげだよ」
「僕、エドガーさんにお願いがあるんです」

　「……じゃあ、ちょっと動いてみる。首尾についてはまたあとで連絡するから。そうだな、２時間くらい待っててくれ」
「はい、どうぞよろしくお願いします」

　「もしもし、テイラーさんですか？」
「リュウ！お前はいったいなにを考えてるんや！」
「ごめんなさい。もう少し、あと２時間待っててください。シャーロットちゃんを助けられるかもしれないんです」
電話をきったあと、ダニーはカウンターをこぶしでたたいた。レストランに強行突入してリュウイチをつかまえ、こづきまわしてやりたかったが、シャーロットの消息については、まったくといっていいほど手がかりがつかめていない。いまいましいが、わらにでもすがりたい状況だったのだ。




ＳＣＥＮＥ１５
　「ロイドさん、おなかすきませんか？」
「俺はいい」
「おなかがすいてたら、元気出ませんよ。傷が早くなおるように栄養つけないと。ここね、完全予約制のレストランで、すごくおいしいんです。ちょっと厨房を見てこようっと」

　「ありました、ありました」
リュウイチが料理ののった皿を持って、うれしそうに戻ってきた。
「みんな食事の途中で逃げちゃったから」

　「いただきまーす」
「うまい！」
「おいしい！さすがだなあ。どんどん食べてくださいね。まだ向こうにいっぱいあるんです」
「でも、食ってもかまわないのかな」
「いいんじゃないですか？だってそのままおいておいてもゴミになるだけだし。きっとＦＢＩが経費で払ってくれますよ」

　「リュウ……」
あまりのリュウイチの食べっぷりに、ロイドは目を丸くした。
「あ、僕はいつもたくさん食べるんです。気にしないでください」

　デザートもしっかり食べて、すっかり満足したリュウイチは、ピアノを弾き始めた。




ＳＣＥＮＥ１６
　ダニーは対策本部でいらいらしながらコーヒーを飲んでいた。
「関係者以外立ち入り禁止です！」
「私は関係者だ！」
入り口で誰かが警官とあらそっている。ダニーは舌打ちをして立ち上がった。

　「どうしたんや」
「この人が中に入れろと……」
「関係者以外立ち入り禁止です」
「カウンティ・ジェネラルの診療部長、ドクター・ロマノだ」
「はあ」
「人質になってるのは、うちの息子なんだ！」
「ドクター・リュウのお父さんですか。失礼しました。全然似てないのですぐにわからなくて。ＦＢＩ捜査官のダニー・テイラーです」
ロマノがダニーに食ってかかる。
「いつになったら息子は解放されるんだ！まさか撃たれてけがをしてるんじゃないんだろうな！」
ダニーも負けじと、怒鳴り返した。
「ぴんぴんしてます！元気過ぎて困ってます！お宅の息子がこちらの指示にちゃんとしたがってたら、もうとっくに解放されてたんや！勝手なことばっかりして！いったいどういう育て方をしたんですか！」

　ロマノは顔を赤くして口をつぐんだ。リュウイチの性格から考えて、犯人に同情してしまい、捜査のじゃまをしていることは容易に想像がつく。

　「リュウと話がしたいんだが」
ダニーが受話器を差し出した。

　「はい」
「リュウ！いったいお前は何を考えてるんだ！」
「……今代わります」
ロマノは舌打ちをした。どうやら犯人を怒鳴りつけてしまったらしい。受話器からは、信じられないことにピアノの音が聞こえてくる。

　「もしもし」
「馬鹿野郎っ！ピアノなんか弾いてないで、さっさと戻って働け！」
リュウイチは思わず受話器を耳からはなした。
「パパ、僕は人質にとられてるんです。もっとやさしくしてください」
「人質って言ったって、好きでそこにいるんだろう」
「あ、そうだ。明日のシフト、代わってくださいね」
「ダメだ。帰って来い」
「えー」




ＳＣＥＮＥ１７
　「もしもし、リュウ」
「エドガーさん！」
「うまくいったぞ」
「ありがとうございますっ！」
リュウイチはあいている方の手でガッツポーズをし、うなずいてみせた。ロイドが手で顔をおおう。

　「女の子は今、シュンが引き取りに行ってる。パパのほうもおとがめなしってことで話がついた」
「よかった……ほんとになんてお礼を言っていいか」
「ヤクに関係してたら、いくら俺でもちょっと無理だったんだが、そうじゃなくてラッキーだったよ」
「鍵はどうすればいいですか？」
「俺のオフィスに送ってくれればいい」
「はい……あのー、僕、なにかエドガーさんにお礼をしたいんですけど」
「礼なんていいよ。リュウは俺の命の恩人なんだし」
「でも、それでは僕の気がすみません」
「……じゃあ、俺とデートしてくれ」
「……わかりました」
「来週の火曜日はどうだ？」
「だいじょうぶです」




ＳＣＥＮＥ１８
　「リュウ！いったいどういうつもりや！」
ダニーがレストランに入ってきた。リュウイチに呼ばれたのだ。
「シャーロットちゃんは無事です。あと１時間したら、アパートの裏庭にもどってるはずです」
ダニーは一瞬息をのみ、やがてふうっと大きくはきだした。いすにどっかりと腰をおろす。

　「どういうことか、説明してもらわんと」
「それはできません」
「なんやて！」
ダニーはリュウイチをにらみつけた。リュウイチもまっすぐダニーの目を見返している。しばらくして、ダニーはあごをなでた。
「裏通りから、まわっていったんやな」
リュウイチがうなずく。

　「協力してほしいんです、テイラーさん。ロイドさんは、うちの精神科に入院してもらいます」
「ええっ！」
ダニーとロイドが思わず声をあげる。
「アルコール依存症です。幻覚と幻聴のせいで、娘が誘拐されたなんて思い込んでシカゴまでやってきたんですよ。かなり重症ですね」
「足の傷は？」
「いもしない敵におびえて、銃をふりまわしているうちに暴発。ここに立てこもったのも、み〜んな幻覚のせいです」

　「それは入院せんとあかんな」
ダニーはにやりと笑った。
「入院して、きちんと治しましょう。退院するころには、シャーロットちゃんも手術を受けて元気になってますよ」
ロイドがリュウイチの手を握りしめる。
「ありがとう！……ほんとにありがとう」




ＳＣＥＮＥ１９
　「おおい！リュウ！」
真っ赤なフェラーリの隣で、エドガーが手招きしている。近づくと、いきなり抱きしめられてキスをされた。思わずリュウイチが身体をかたくすると、エドガーはにやりと笑った。
「おいおい、勘違いするなよ。ドライブして食事するだけだ。それと、洋服買ってやる」
「いえあの、僕は別に」

　助手席に乗り込みながら、リュウイチは心の中で安堵のため息をついた。
「シュンに殺されたくはないからな」
「なにか言いました？」
「いいや」
エドガーは、うれしそうにリュウイチの頭をくしゃくしゃとかきまわすと、アクセルをふみこんだ。




ＳＣＥＮＥ２０
　「かわいい！」
リュウイチの写真を見たサマンサが、歓声をあげた。
「どれどれ……ほんと、女の子みたい」
ビビアンがあいづちをうつ。
「有名なピアニストだったんでしょ。プリンス・リュウっていって」
「指に１０００万ドルの保険、かけてたはずだね。大統領夫妻もファンらしいよ。ホワイトハウスでコンサートやったことあるって」

　「いいな、こんなかわいい子。シカゴに行けばよかった」
「ああ、サマンサ、よろこんで代わったる。かわいい顔して、そいつ、なかなかのタマやで。もうこりごりや」
「こりたわりには、なんだかうれしそう。どうかした？」
ビビアンがダニーの顔をのぞきこむ。
「いいや、別に……へへへ、仕返ししたった」
ダニーはオフィスのいすにもたれて、大きくのびをした。




ＳＣＥＮＥ２１
　「あれ？」
オフィスで郵便物をチェックしていたリュウイチは、眉根を寄せた。
「これって、立てこもってたレストランからだよね。何だろう」
封筒を開けて中身を見、思わずデスクにつっぷする。それはあのとき調子にのって食べた料理に対する請求書で、目がとびでるような金額が書かれていたのだ。リュウイチは、頭をかきむしりながらうなった。
「ＦＢＩのケチっ！」

ＴＨＥ　ＥＮＤ

　お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

　今回は『ＦＢＩ失踪者を追え！』（Without a Trace）とのクロスオーバーエピです。ＨＰはこちら。ダニーが大好きなので、登場してもらいました(^^)ご覧になられていない方には？なお話だったと思います。ごめんなさいm(_ _)m

　エドガー・フライシュマンはＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ２９「Ａ　ＰＯＲＴＲＡＩＴ」に登場した人物で、地元マフィアのボスのひとり、ヘンリー・フライシュマンの末息子です。

　次回はまた書けたらＵＰいたしますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
　

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