ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ２１ 「ＡＮＯＴＨＥＲ ”ＦＩＲＳＴ ＳＮＯＷＦＡＬＬ”」
今回のお話は、第９シーズン第８話『初雪 ＦＩＲＳＴ ＳＮＯＷＦＡＬＬ』のサイドストーリーです。原作の雰囲気や余韻その他もろもろ、すっかりぶち壊し間違いなしのお話なので、お読みになると、ご気分を害される方も多いのではと思います。「そんなのいつもじゃん。何今頃言ってんだ。この馬鹿（冷笑）」と思われる方だけ、どうぞお読みくださいませm(_
_)m
ＳＣＥＮＥ１
「みなさん、おはようございます」
「おはよう、リュウ。なんだかへろへろになってるわね」
ＥＲに出勤したリュウイチは、エリザベス、スーザン、カーターとあいさつをかわした。
「リューリュー」
手を伸ばしてきたエラを抱きとり、高い高いをしながら、リュウイチが尋ねる。
「エリザベス先生、この大雪の中、どうやっていらしたんですか？」
「電車で来たのよ」
「ええっ！電車が動いてたんですか！電車で来ればよかった」
「いったいどうやって来たの？」
「スノーモービルで」
「すごいわねえ。リュウがスノーモービルを運転できるなんて、知らなかったわ」
「ルイス先生、寒がりで運動音痴の僕が、そんなもの運転できるわけがないじゃないですか。乗せてもらったんです」
「誰に？」
「やあおはよう。出迎えご苦労……リュウ！先に行くやつがあるか。私一人でスノーモービルを鎖で柱につながなきゃならなかったんだぞ」
「先に来たんじゃありません。病院の３００メートル手前のカーブで僕を振り落としたことに、パパが気付かなかっただけです」
「ちゃんとつかまらんからだ」
「つかまってましたよ。パパはスピードの出しすぎです。もう絶対乗りませんからね」
「ああ、もう乗せてやらんぞ。こっちから願いさげだ。お前がこわがってしがみつくもんだから、運転しにくくてかなわん」
「こわがってません！」
「うそつけ、ずっと目をつむってたくせに」
「…………」
「やっぱりそうか、この弱虫！」
『くそっ！何もルイス先生の前で言わなくてもいいじゃないか。あ〜あ〜思い切り笑われちゃってるし……でも、ルイス先生の笑顔って、とっても素敵だよね……彼氏いるんだろうな……』
ＳＣＥＮＥ２
「リュウ先生、雪合戦しませんか？」
「遠慮しとくよ、エレン。僕、寒いのは苦手なんだ。ランディさん、小児科の遊戯室でピアノ弾いてますから」
「わかった」
「ピアノ弾けるんですか？」
「亡くなったパパがピアニストだったから」
「先生のパパはロマノ先生でしょう？」
「亡くなったのは、義理のパパなんだ」
「それってどういうことですか？」
リュウイチは、しまったという顔をした。どうやら、エレンの好奇心に火をつけてしまったらしい。
「ええと……ランディさん、適当に説明しといてください。お願いします」
「了解」
ＳＣＥＮＥ３
交通事故で重傷を負った母親とふたりの子どもが運び込まれていた。子どものうちの兄の方（マット）を診察しながらエリザベスが言った。
「カーターは？」
「帰りました！」
コバッチと、母親を治療しているリュウイチが叫ぶ。
「誰か来てくれないと、手が足りないわ！」
「どうした？交通事故か？」
「ロバート！よかった。手伝って」
「こんな大雪の日に、人をはねた馬鹿が３人もいるのか」
ロマノはエリザベスと一緒に、マットの治療を始めた。
「馬鹿はひとりよ、ロバート。ママとその子どもたち。家の前で雪だるまを作ってた家族に、飲酒運転の大型トラックが突っ込んだの」
ロマノの手が一瞬止まる。
「……父親は？」
「雪だるまの鼻にするニンジンを取りに家に帰ってて、事故を免れたみたい」
ＳＣＥＮＥ４
「折れた肋骨で、冠動脈が破れてる……広範囲の心筋梗塞をおこして……これは修復不能だな」
「肺の損傷もひどいわ」
その時、スーザンが入り口から声をかけた。
「容体はどう？」
「母親は肺門が損傷してて、肺動脈と肺静脈も裂けてる。心臓が空だ」
「マットは心臓と肺の損傷がひどくて、機能してないわ」
「そう……トビーは広範囲の脳浮腫に、脳室は完全につぶれて、脳幹は機能してないの」
スーザンの言葉に、ロマノとエリザベスは顔を見合わせた。ロマノがうなずく。
「パパのサインをもらって来い、リジー」
ＳＣＥＮＥ５
「同意をとったか？」
エリザベスはかぶりをふった。
「それが、混乱してて……」
「心肺同時移植しか、助ける方法はないぞ」
「わかってる……ネイサンが今説得してるわ」
ほどなくネイサンが顔を見せた。
「取りました。……脳波を見せて」
「サインをもらった？」
「今してます」
廊下で父親と話をしているネイサンを見ながら、ロマノが言った。
「お前のふらふら医学生、なかなかやるな」
「ネイサンよ」
「くそっ！また心室細動だ！１２０にチャージ！さがって！」
「上に運んでバイパスをつけるわ」
「よし、同調律の間に行くぞ」
ＳＣＥＮＥ６
母親にシーツをかけながらくちびるをかみしめるリュウイチの肩を、コバッチが軽くたたく。
「損傷が大きすぎたんだ……君はよくやったよ、リュウ」
「…………」
致命傷であることは充分承知していたが、それでも救うことができなかった無念さが、リュウイチの胸をかんだ。
「ご主人には僕が話す」
「……はい……」
ＳＣＥＮＥ７
母親の遺体の側でぼう然とたたずむ父親に、リュウイチは声をかけた。
「すみません……トビー君を上へ連れていかなければならないので……お別れを……」
父親は、はじかれたようにこちらを向いた。リュウイチはトビーが横たわっているベッドを押してきて、母親のベッドと並べると、柵をおろした。二人の手をそっと重ね合わせる……。父親は枕元に立ち、両手で、ふたりの手を包み込むようにして握った。肩が小刻みに震え、嗚咽がもれる。やがて父親はひざをつき、手を握ったまま号泣し始めた。リュウイチは静かに部屋を出た……。
ＳＣＥＮＥ８
トビーをオペ室へ運んだリュウイチは、ロマノに声をかけられた。
「ドナーか」
「ええ、弟のトビーです」
「お前もオペ室へ入って、俺のアシストをしろ。大雪のせいで、今日は人手が足りないんだ」
「僕は今日はＥＲ勤務です」
「ケリーには話を通してある」
「わかりました」
ＳＣＥＮＥ９
リュウイチは、小児ＩＣＵへマットの様子を見にやってきた。
「……順調ですね。あと２時間くらいすれば麻酔からさめて管が抜けますから、少しだったら話ができますよ」
「ありがとうございます」
「いいえ、僕は何も……」
「……あっという間に家族が半分になってしまって……何が何だか……今朝起きた時は、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったのに……」
父親は息子の手を握りながら、絞り出すような声で言った。
「……僕も……１１年前のあの朝、全然思いませんでした……『ママがいない間、パパをいい子にさせてね、リュウ』ってママが言ったら、パパが『鬼のいぬまに男同士で羽を伸ばそうな』って……『パパをちゃんと見張るのよ』『甘いな、シオン。こいつはすぐに食べ物で買収されるから、スパイには不向きだぞ』……そう言って出て行った両親は、それっきり二度と帰って来なかった……相手は飲酒運転の大型トラックで……即死でした……僕は何が何だかわからなくて……泣いたのは３日もたってからだった……１週間後に実の父に引き取られて……自分に１０歳になる息子がいるって突然知らされたのに、即断即決で父は僕を引き取ってくれて……父も困ったでしょうね。僕が毎日泣いていて……でも、『泣きたい時は泣けばいい』って言って、抱きしめてくれました……僕が立ち直ることができたのは……たくさん流した涙と、父のお陰です……亡くなった両親は僕の胸の中にずっといますけど、トビー君は、本当にマット君の胸の中で生き続けるんですね……」
リュウイチは、そっとマットの頭をなでた。
「おい！リュウ！こんなところでさぼってないで、さっさとオペ室に入れ！銃創患者がくるぞ！」
「はい！」
リュウイチはにっこり笑って言った。
「今のが僕の父です。……あ、僕が苦労をかけたせいで、ハゲたんじゃありませんよ。引き取ってもらったときには、すでにああだったんです」
ＳＣＥＮＥ１０
「飲むか？」
外科の廊下で、ロマノはエリザベスにコーヒーを差し出した。
「ありがとう」
エリザベスはベンチに座った。少し離れて隣に座ったロマノが、コーヒーを飲みながら言った。
「心肺移植の子ども、意識が戻って抜管したらしい」
「そうらしいわね……うまく適合するといいんだけど」
「まあ適合する確率は、兄弟が一番高いからな」
「ええ」
ロマノは思い出したようにあたりを見回した。
「エラはどうした？もう託児所は閉まってるだろう？」
「リュウが下へ連れて行って遊んでくれてるわ。彼にはいつもよくしてもらって、感謝してるの」
「あいつでよければ、どんどん使ってかまわんぞ。こき使われるのには慣れてるはずだ」
「ありがとう」
「……半年……になるのか……グリーンが亡くなって……これくらいになると、みんな思うんだ。『私はだいぶ立ち直った』って。でも、それは違う。自分でそう思い込んでるだけで、実際はそうじゃない。だから……」
ロマノはいったん言葉をきり、顔を横に向けてエリザベスの目をじっと見つめた。
「……無理はするな、リジー……」
「……ありがとう、ロバート……」
エリザベスは、あることに思い当たってはっとした。
「ロバート、あなたも誰か大切な人を亡くしたの？」
「…………」
思いがけないエリザベスの言葉に、ロマノは何も答えず自分の足元を見つめた。
「ごめんなさい、私ったら……」
あわてて謝るエリザベスを、ロマノは手で制した。
「いや、いいんだ……７つ上の兄がチンピラに刺されて……まだ１１のガキだった俺は、地面に倒れて苦しみながら死んでいく兄貴に、何もしてやれなかった……」
「……ロバート……」
ロマノは勢いよく立ち上がりながら言った。
「もう随分昔の話だ。君とは違う。……帰るときは言ってくれ。駅までスノーモービルで送ってやる」
「ありがとう。運転してもいい？」
「ああ、いいぞ。そのかわり、スピードは出すなよ」
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_
_)m気分を害された方、ごめんなさいm(_ _)m
次回は「ＤＥＡＲ ＤＡＤ」の予定です。どうぞよろしくお願いいたしますm(_
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