ＴＨＥ　ＧＥＮＴＬＥ　ＤＲＡＧＯＮ

ＳＩＤＥ　ＳＴＯＲＹ　８　　「Ａ　ＲＥＵＮＩＯＮ」　　〜クリスマス＆年忘れバージョン〜

ＳＣＥＮＥ１
　クリスマスも間近のある日、ロマノ家に一枚のカードが届いた。
「クリスマス・ディナーへのご招待……”Ｃａｔ'ｓ　Ｔａｉｌ”？しらんぞ、こんな店。リジー、知ってるか？」
「いいえ。リュウの行きつけのお店なんじゃないかしら」
「そうか！あいつは食い意地がはってるからな。きっとそうだろう。まあ、せっかくのご招待だ。行ってみるか」



ＳＣＥＮＥ２
　クリスマス当日……。
「遅いぞ、リュウ！」
「ごめんなさい。今日は外傷患者が多くて……これでも、ウィーバー先生がすごい顔でにらんでるのを見ないふりをして、やっとの思いで抜けてきたんです」
「いいわけするな」
「すみません」
「ロバート、ちゃんと前を見て運転して」



ＳＣＥＮＥ３
　「へえ、なかなかしゃれたお店ですね」
「お前の行きつけの店じゃないのか？」
「いいえ、初めてですよ」
「私たちも初めてよ」
「じゃあ、この招待状は間違いか？」

　「ロマノ様でいらっしゃいますか？」
「ええ、そうです」
「こちらへどうぞ。先方様はもうお着きになって、お部屋でお待ちです」
「先方様？」
ロマノたちは個室に通された。



ＳＣＥＮＥ４
　「パパ！ママ！」
「マーク！」

　シオンとシュウは、リュウイチを抱きしめた。
「リュウ……大きくなって……」
「ごめんな、お前をひとりぼっちにしてしまって……」
「パパ、ママ……」

　グリーンは、エリザベスとエラを抱きしめた。
「エリザベス……エラ、大きくなったね……」
「マーク……」

　「ロバート……」
「シオン……」
ロマノとシオンは抱き合った。
「ロバート、リュウを引き取ってくれてありがとう」
「いいや……俺のほうこそ、リュウを産んでくれてありがとう。……君はあのころとちっとも変わっていないな、シオン……」
「あなたは……ちょっと変わった……わね」
「どこを見て言ってるんだ、シオン」

　「初めまして、シュウ・タカミザワです。リュウを引き取って育ててくださって、どうもありがとう」
「初めまして、ロバート・ロマノです。こちらこそ、リュウを育ててくださってありがとう」

　「ロマノ先生、エリザベスとエラを愛してくださって、どうもありがとうございます。エリザベスのことを大事にしてくださるだろうってことは、わかってましたが、エラのことまで本当の子ども以上にかわいがっていただいて……」
「結婚して私の妻と娘になったんだから、当然のことだ。礼なんか言わんでいい」
「あいかわらずね、ロバート。素直に『どういたしまして』って言えばいいのに……ごめんなさい、マーク」
「いや、いいんだ、シオン。よくわかってるから」

　「エリザベス、小さいときからリュウをかわいがってくださって、ありがとう」
「シオン……ほんとにリュウにそっくりね……私のほうこそ、リュウにはいつも支えてもらってるのよ。エラのこともかわいがってくれてるし……」
「エリザベス、俺からも礼を言うよ。ありがとう……なんて美しい人なんだ……これは運命」
「シュウ！いいかげんにしなさいっ！あなたって人は！」
「あわわ、ごめん、つい、口癖で……シオン、お願いだから暴れないで……」

　「リュウ、エリザベスとエラを大切にしてくれて、ありがとう」
「いいえ、グリーン先生、僕は何も……」

　

ＳＣＥＮＥ５
　「メリークリスマス！」
部屋にはソファーとテーブルがあり、料理や飲み物がセッティングされていた。まずは乾杯をして、パーティーが始まった。

　「今日はどうして、パパたちに会えたの？」
「シオンがくじに当たったんだ」
「くじ？」
「天国には、『年末ジャンボ宝くじ』っていうくじがあって……」
「……パパのうそつき」
「いや、ほんとなんだ。１等賞に当たると、会いたい人に会える。クリスマスの夜６時から９時までの３時間だけだけどな……。当たった本人だけが会えるっていうきまりなんだけど、当選を伝えに来たのが新米の天使で……」
「ママ、天使をおどしたんだね」
「人聞きの悪い事を言わないで、リュウ。一生懸命主張しただけよ。当たった人の家族や友達も、恩恵を受けてもいいんじゃないのかって。だって、天国のくじなのよ。神様発行の」
「その天使は、シオンと上司の神様との板ばさみになって、ずいぶん大変だったみたいだよ」
「マーク、そういうこと言っていいの？あなたが家族に会えたのは、誰のおかげ？」

　「天国のくじには、空くじはない。愛する人の夢に出ることができたり、ちょっとした幸運をあげたり、その他いろいろなことができるようになってるんだぞ」
「へえ、そうなんだ」



ＳＣＥＮＥ６
　しばらく時間がたつと、自然にメンバーはふた組に分かれた……。

　「エリザベス、君がロマノと結婚したことを、僕は本当にうれしく思ってる。彼はまあ、いろいろ問題のある人だけど、彼の、君とエラに対する愛情は本物だ。君にとって、よき夫、そして、エラのよきパパであれば、あとのことはどうでもいいよ」
「ありがとう、マーク……あなたにもう一度会えるなんて、夢みたい……」
「僕もだよ、エリザベス……」

　「パパ！」
「エラ、僕のことをパパって呼んでくれるの？これも、ロマノに感謝しなくちゃね」
「ロバートが、『実の父親のことを全然知らずにエラが育つというのでは、あまりにもグリーンが気の毒だろう』って言ったのよ」
「そういうやさしさを、生きているときに、少しでもいいから僕に示してくれればよかったのに」

　「マーク、レイチェルに会わなくてもいいの？」
「僕のくじは、夢に登場できるのが当たったから、レイチェルには夢で会うつもりなんだ。その方が彼女も素直になれると思って」
「そうね。夏休みに彼女に会ったけど、とってもいい子になってたわ」
「そうみたいだね。……天国に行くと、いろんなことを見ることができるんだ。見えても何もできないから、かえってせつないときもあるけど……」

　「シオンやシュウと、お友達になったみたいね」
「そうなんだ。リュウがお世話になってありがとうって、シオンに声をかけられたのが最初でね。さすがはリュウのパパとママ、とってもいい人たちだよ。僕が君やエラと早く死に別れてあまりにもかわいそうだって、今度も一緒にって言ってくれたし……。そういえば、リュウが君の息子、エラのお兄ちゃんになったってことも、僕が君の再婚をよかったなあって思う理由のひとつだ」
「いろいろ気を使ってくれるのよ。とっても助かってるわ。ロバートとうまくいってるのは、リュウのおかげっていうところもあると思うの」
「気を使いすぎて、若ハゲにならなきゃいいけど……」
「まさか！」
「いいや、わからないよ。パパはあのとおりだからね」
「ほんとだわ。これからは、あんまりリュウに心配かけないようにしなくっちゃ。ハゲたらかわいそう」



ＳＣＥＮＥ７
　「今からしばらく数学の話をリュウとするから、ロバートもシュウも邪魔しないでね」
「数学？リュウ、お前まだ数学を続けてるのか？」
「ええ、細々とですけど……」
「外科医の道を選んだことには、私もシュウも文句はないけれど、せっかくの才能なんだから、ピアノも数学もできる限り続けてほしいの……。ステファンがリュウの恩師だっていうのは、とってもラッキーだったわ。彼は強引なところがあるから……そうでなかったら、とっくにあなたは数学を放り出してたはずよ。……じゃあリュウ、始めるわよ……」

　「ふたりとも何を話してるか、さっぱりわからんな」
「聞いてるだけで眠くなる。もうちょっと飲もう、ロバート」
「そうしよう、シュウ。邪魔をして、シオンの機嫌を損ねたら大変だからな」
「痛い目にあわされた上に、『ごめんなさい』を５０回も書かされるのは、まっぴらごめんだ」
「大事なものを壊されるのもたまらんし……まあ今日は帆船もゴブレットもないからそれは大丈夫か」
「いやいや、シオンのことだ。キレたら何をするか……考えただけで恐ろしい」
「黙って飲んでるに限るな……」

　「はい、おまちどうさま。今度はシュウの番よ」
「よしきた！このために、グランドピアノのある部屋にしたんだからな。たっぷり聞かせてもらうぞ」

　「ふふふ、シュウのうれしそうな顔……リュウがドリーム・オーケストラのメンバーに選ばれたときは、『俺の言ってたとおりになった！』って大騒ぎで、うるさくて大変だったのよ……」
「ドリーム・オーケストラって……」
「むこうにいるとね、いろいろなことが見えるの。見えるだけなんだけどね……」
「そうなのか……。シオン、君に聞きたいことがあるんだ……俺たちが別れたとき、君はリュウが生まれることがわかってたんじゃないのか？」
「ええ、そうよ」
「やっぱりそうか……。リュウが生まれることがわかってたら、俺はシカゴへは行かなかった……」
「だから言わなかったの……」

　「エリザベスって、とっても素敵な人ね」
「ありがとう」
「大事にしなきゃだめよ」
「わかってる」
「あなたが、素直に自分の気持ちを言えない人だっていうのはよくわかるけど、言わなきゃ相手はわからないのよ」
「……」
「ロバート、リュウのためにも、エリザベスに嫌われないようにしてね」
「ああ」



ＳＣＥＮＥ８
　「シオン、ちょっとはずしてくれないか、リュウと大事な話があるんだ」
「独り占めはずるいわよ、シュウ」
「すぐ終わるから……頼むよ。リュウと男同士の話があるんだ」
「いいわ、わかった」

　「シオン、どうしたの？」
「シュウがリュウと男同士の話があるんですって、自分ばっかりずるいわ」
「じゃあ、君はエリザベスと話をするといいよ。僕もちょっとあっちへ行って、男同士の話っていうのを聞いてこよう」

　「エリザベス……お願いがあるの」
「なあに？シオン」
「私、リュウのことは全然心配してないの。でも、ロバートのこと……彼は自分の気持ちがうまくいえない人だから……とっても心配なのよ。あなたに嫌われないかって」
「大丈夫よ、シオン。私はロバートのそういうところが好きで、結婚したんだから」
「ほんと？よかったわ。……ねえ、エリザベス、リュウって泣き虫でしょう。あれはきっとロバートに似たのよ」
「あ！私もそう思う。結婚するまではわからなかったけど、ロバートって子どものころ、泣き虫だったんじゃないかしら。だって、かわいそうな映画とかドラマを見ると、すぐに泣いちゃうのよ」
「そうでしょう！ティッシュで鼻をかむからすぐわかるのよね」
「そう！いつも見ないふりをしてあげてるんだけど……この間なんか、エラに絵本を読んでやりながら、涙ぐんでたんだから」
「へえ、何の絵本？」
「フランダースの犬」
「それは泣くわ、絶対に泣く」
エリザベスもシオンも爆笑した。

　「……ああ、笑いすぎて苦しい……でも、泣き虫ってことは、本質的にロバートはやさしい人なんだと思うの。でも、彼はやさしさを弱さと勘違いしてるみたいで、それを必死になって隠してるけど……だから、いつもみんなに誤解されるんだわ……」
「ちゃんとわかってくれてるのね……ロバートもいい人にめぐりあえて幸せだわ」



ＳＣＥＮＥ９
　「リュウ、俺が一番心残りだったのは、お前に女について、いろいろ教えてやれなかったことだ」
「パパ……」
「ロバートもマークも聞いてくれ。こいつはこの歳になって、女の子とちゃんと付き合ったことがないんだぞ」
「ほんとか、リュウ」
「信じられない」
「……そんなことはないよ。僕だって……」
「見栄を張るな、リュウ」
「……ごめんなさい……だって忙しいんだもの……」
「あ、そうか。リュウの場合、１５で医学部に入学したから、文字通り、医学に青春を捧げてるってわけだ」
「リュウ、明日休みをやる」
「おい、ロバート、急に休暇をやったって、こいつは女の子をデートに誘う方法も知らないんだ」
「方法って……ただ、誘えばいいんだろう？なあ、グリーン」
「ええ、そんな大げさな……デートしようって言えばいいだけのことでしょう」
「だめだめ、そんなこと言ってるようでは。これがあるんだな、絶対に断られないデートの誘い方。しかも女の子のタイプ別に……」

　「本当は、ちゃんと実践練習をしながら教えてやりたいんだけど、悲しいことに俺は死んじまってるからな。マニュアルを持ってきた」
シュウはリュウイチに、１冊の小さなノートを渡した。
「俺のノウハウのすべてが書いてある。これをやるからしっかり勉強しろ」
「……はい……」
「まったく……若くて美貌の天才ピアニスト、おまけに優秀な外科医だっていうのに、それじゃ宝のもちぐされだ。お前なら、４トントラック一杯のガールフレンドがいても不思議じゃないのに、ひとりもいないなんて……そういうのを馬鹿っていうんだぞ」

　「どれ、ノートを見せてみろ」
「あ、ロバートはだめ。それを読んで浮気に走られちゃ困るんだ。君にはこっち」
シュウは、ロマノにも小さなノートを渡した。
「エリザベスとうまくやっていくために、いろいろ書いておいた。よかったら参考にしてくれ」
「ありがとう」
「どれどれ、僕にも見せて……『第１章　絶対に言うな！女を怒らせてしまうこのひと言』……へえ、すごいや……これはためになるよ。僕も読んでおけばよかった……」



ＳＣＥＮＥ１０
　「グリーン……君に聞いておきたいことがある」
「なんですか？」
「君は、エラがどんなふうに育ってほしいと思ってるんだ？」
「ロマノ先生……」
「希望どおりに育てられるかどうかは、わからんがな」
「ええと、やさしくてしっかりしていて、自分の考えをちゃんと持っている女性になってくれれば……」
「じゃあ、リジーのようになればいいわけだ」
「そうですね」
「あと、どんな男と結婚すればいいと思う？」
「結婚……ですか？」
「俺は、エラが結婚すると思うと気が狂いそうになる。できれば結婚してほしくないんだが、そうもいかんだろう。……まず、医者はだめだな」
「僕もそう思います。忙しくて、家庭を顧みる暇がない」
「それに、ピアニストもだめだ」
「女性問題で、エラが苦労しそうだ」

　「ふたりとも、深刻な顔をして、何を話してるんだ？」
「エラの結婚の話だ」
「エラの結婚？ずいぶん先の話だな」
「シュウ、君はエラがどんな男と結婚したらいいと思う？」
「そんなこと考えても無駄だぞ。ある日突然男を連れてきて、『パパ、私彼と結婚するわ』って言って終わりだ。父親の意見なんて聞くもんか。考えてみろよ。ふたりとも自分が結婚したとき、そうだっただろう？エリザベスをパパから奪った報いを、２０年後に受けることになるな、ロバート」



ＳＣＥＮＥ１１
　あっという間に時は過ぎた。抱き合って別れを惜しんだ後、ロマノたちは帰って行った……。

　「シュウ、シオン、ありがとう。何てお礼を言っていいか……」
「どういたしまして。よかったな、エリザベスとエラに会えて」
「いいのよ、私たちって親戚みたいなもんだし……あ、あなたエリザベスたちに話した？生まれかわりのこと」
「いいや、言わなかった。だって、生まれかわるときに、僕のマーク・グリーンとしての記憶は失われちゃうわけだし……彼女たちが知る必要はないんじゃないかと思って……」
「それもそうね」
「でも、特等が当たるなんて、運がよかったよな」
「ほんと、エリザベスとエラと、長らく一緒にいられるんだものね。あ、レイチェルにも会えるわ。義理の弟ってことになるのかしら」
「そうだね。エラの弟だから。……僕は生きてる間、けっこう運が悪かったんだけど、死んでからは幸運が続くなあ……」
「マークは、ロバートをパパって呼ぶことになるのね」
「そうなんだよ。なんだか変な気分だ」

　「じゃあ、俺たちもそろそろ帰るとするか……」
「僕は、レイチェルのところに寄って行くから……。シュウ、ありがとう。君の当たりをゆずってもらって」
「いいんだ。俺はリュウの他に会いたい人はいないから。付き合ってた女って言ったって、たくさんいすぎてひとりに決められないし……」
「シュウ！帰るわよっ！」

ＴＨＥ　ＥＮＤ

　お読みいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
　最初は座談会風にする予定だったんですが、こうなってしまいました(^_^;このお話は、サイドストーリーのサイドストーリー、それもファンタジーバージョンということで(^^)
　これが今年の最終エピになります。どうもありがとうございましたm(_ _)m次回は新年エピになる予定です。来年もどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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