ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ５６ 「ＳＡＮＴＡ ＣＬＡＵＳ ＩＳ ＣＯＭＩＮＧ ＴＯ ＴＯＷＮ」
ＳＣＥＮＥ１
「やあ、リュウ、すばらしいコンサートだった。どうもありがとう」
「こちらこそありがとうございます、大統領。光栄です」
バートレット政権２期目がスタートしたばかりのホワイトハウス。クリスマスを１０日後にひかえて、リュウイチのピアノコンサートが開かれた。
「ゆっくりしていけるんだろう？」
「ええ、明日の夜まで勤務は休みです」
「じゃあ、パーティーを楽しむといい」
「はい、ありがとうございます」
引き続いて開催されるクリスマスパーティーまでには、まだ少し間がある。リュウイチは、廊下をぶらぶらと歩き出した。
「リュウ！」
書類の束を抱えたＣＪが駆け寄ってきて、リュウイチを思い切り抱きしめ、キスをした。
「元気だった？」
「ええ、おかげさまで」
「どうかした？」
「いえ……別に」
実は少しばかりキスが熱烈だったので、心臓がばくばくしているのだ。
「あとで踊りましょうね」
「はい」
ＳＣＥＮＥ２
「リュウ！」
「ドナさん！」
「ドーナツ食べる？」
「ありがとうございます！いただきます！」
リュウイチはいそいそといすに座った。
「はい、どうぞ」
ドナはチョコレートのかかったドーナツを差し出した。
「すみません、いただきま〜す……あー幸せ」
「チョコレート好きでしょ、ミルクティーもあるわよ」
「覚えててくださったなんて、感激です」
「コンサートのあとはおなかがすくだろうと思って、買っておいたの」
「ますます感激です」
「たくさん食べてね」
おいしそうにドーナツを食べているリュウイチを、ドナはほほえみながら見つめている。
「ねえ、ドナ」
「あ、おじゃましてます、ライマンさん」
「やあ、お久しぶり……ドナ、今日はちょっと食事するひまなくてさ」
「知ってる」
「あ、これどうぞ」
リュウイチが差し出したドーナツの袋を、ドナが取り上げた。
「これは私が、リュウのために買って来たの」
「ひどいな。僕よりリュウのほうが大事なんだ」
「ええ、そうよ」
「僕はいつも君のことを思ってるのに」
「うそつき」
「もういいよ、君を恨みながら飢え死にしてやる」
「いいんですか？ライマンさん、行っちゃいましたけど」
「いいのよ。ジョシュの分は、彼のデスクの上においてあるから」
ＳＣＥＮＥ３
「やあ、リュウ」
「ご無沙汰してます、ジーグラーさん。あ、おめでとうございます。パパになられるんですよね。双子ちゃんの」
「これ、ちょっと見てくれるか？」
トビーは超音波写真を取り出した。
「五体満足かどうか」
「……この写真じゃ……」
「君もあの産科の医者と同じだな。ヤブ医者だ」
「だってまだ時期的に早すぎます。どんな名医でもわかりませんよ」
「うちの子どもたちにケチをつけるのか？」
トビーは目を見開き、いまにもかみつきそうな勢いである。
「いいえ、だから……困ったな」
「トビー、何してるの？」
「アンディ、こいつがうちの子たちにケチをつけたんだ」
「違いますってば」
アンディはトビーが写真を握っているのを見て、ため息をついた。
「ごめんなさいね。この間の検診の時も、ドクターにくってかかったのよ」
「妻のアンディだ」
「元妻でしょ」
「リュウイチ・ロマノです。初めまして」
「コンサート素敵だったわ」
「ありがとうございます」
「ほんとにあなたかわいいわね。トビーの横にいるとよけいに」
ＳＣＥＮＥ４
リュウイチは、ドアをノックした。
「ビル・ヘイリーさん？リュウイチ・ロマノです」
「僕はウィル・ベイリーだ」
「すみません。ジーグラーさんが、シーボーンさんのオフィスにビル・ヘイリーって人がいるから、あいさつしてこいって……」
「ウィル・ベイリーだってば」
「ごめんなさい……あ、すごい。自転車がいっぱいだ。趣味なんですか？」
「まあね」
ＳＣＥＮＥ５
「失礼します……」
レオのオフィスに入ったリュウイチは、棒立ちになった。レオがジョードンとキスをしていたのだ。
「失礼しましたっ！」
出て行こうとするリュウイチを、レオは呼び止めた。
「ちょっと待て、用事があるから呼んだんだ」
「いえ、でも、あの、その……」
「私がキスをしていたからといって、どうして君が赤くなる必要がある？」
「はあ、それはそうです」
「キスなんて珍しくもなんともないだろう」
「ええ、まあ」
「ガールフレンドが山ほどいるくせに」
「え？あ、う……いません」
レオはリュウイチを見つめた。
「うそだろう？」
「いいえ」
「ひとりも？」
「ええ」
「……そうか！ボーイフレンドか。気にしなくていい。私は別に偏見など持っちゃいないから」
「ち、違いますっ！仕事が忙しすぎて、女の子と知り合うひまがないんですっ！」
「職場にいっぱいいるだろう」
「……訂正します。僕の片思いです」
レオは舌打ちをした。
「男なら、当たって砕けろ」
「砕けて散ってしまったら？」
「そこまで責任はもてない」
ＳＣＥＮＥ６
「ふう」
リュウイチは額の汗をふいた。
『ええと、パーティー会場はどこだっけ』
「あっ！ごめんなさい！」
きょろきょろとよそ見をしながら歩いていたので、前から来た人と、思いきりぶつかってしまったのだ。よろけたリュウイチを、その女性（ひと）は素早く支えてくれ、にっこり笑うと、人差し指でちょんとおでこをつっついた。
「坊や、ちゃんと前を見て歩かなきゃだめよ」
「はい、すみません」
「なあに、フィッツ」
ナンシー・マクナリーは、並んで歩いているフィッツウォレスをじろりと見た。
「いや、別に。ただ、かわいい子にはやさしいんだなと思って」
「あなたもやさしくしてほしいの？」
「いいや」
ＳＣＥＮＥ７
ドアの前で身だしなみを一応ととのえる。パーティー会場から、ファースト・レディーに呼び出されたのだ。
「失礼します」
「どうぞ」
ドアを開けたリュウイチは、思わずそのまま閉め、ドアにもたれて胸を押さえた。
『うそでしょう！』
「どうしたの？入ってらっしゃい」
深呼吸をして、もう一度ドアを開ける。
「いらっしゃい、リュウ」
ソファーでみんなくつろいでいた。アビー、ＣＪ、ドナ、エイミー、アンディ、ジョードン。女性ばかりだ。
「え〜と、実はたった今、父から電話があったんです。すぐ戻って働けって」
「そんなの放っておきなさい」
「でも、クビになっちゃうかもです」
「訴えればいいわ。私が弁護してあげる」
「クビになったらジェドに言って、ここで雇ってあげるから。さ、お座りなさい」
アビーは自分の隣のソファーを、ぽんぽんとたたいた。
「ここにいるのは、『かわいい男の子をいじめる会』のメンバーなの」
ＣＪは、リュウイチにグラスを持たせた。
「会長は私」
アビーがにっこり笑って、リュウイチにワインをつぐ。
「じゃあ、会のますますの発展を祈って……乾杯！」
『誰か助けて！』
ＳＣＥＮＥ８
１時間後、パーティー会場では、４人の男たちがそれぞれのパートナーを探していた。
「変だな」
「変ですよね」
「おかしい」
「どこへ行ったんだ」
「やっぱりここか！」
「まあ、ジェド」
「何が『まあ、ジェド』だ。こんなところで何してる」
アビーはいたずらっぽく笑った。
「もしかしてやきもち？」
「馬鹿なことを言うんじゃない。どうして私がやきもちをやかなきゃならないんだ」
リュウイチは心底ほっとしていた。これで解放されるだろう。
「リュウ、勝負しよう」
「は？」
「ジェド」
「何でもいい。ポーカーでも、腕ずもうでも……ピアノはだめだ……よし、ビリヤードにしよう」
「えっ！」
「賛成」
「僕も」
「私もだ」
ＳＣＥＮＥ９
『とほほ。どうしてこういうことになるんだ』
笑顔を張り付かせて、リュウイチは困惑していた。大統領もレオもジョシュもトビーも、上着を脱いで、腕まくりをしている。
「いいか、真剣勝負だぞ。手加減したりしたら承知しないからな」
『誰か止めてよ』
女性陣はグラスを片手に、興味深そうに成り行きを見守っている。
「じゃあ、僕から」
「負けるなよ、ジョシュ」
「冗談でしょう。僕はホワイトハウスで一番強いんですから」
「うそばっかり」
「何か言った？ドナ」
「いいえ。リュウ、がんばって」
「ドナ、『ジョシュ、がんばって』だろ」
「がんばって、リュウ」
「ちぇっ……じゃあいくぞ！覚悟しろよ！」
ＳＣＥＮＥ１０
「なんてだらしないんだ」
「あなたも負けたでしょう、大統領」
「レオ、その言葉はそっくりお返ししよう」
「私は、今日はたまたま調子が悪かったんです」
「奇遇だなあ。実は私もだ」
「私もです」
「僕も」
「リュウのやつ、なんでビリヤードみたいなものがうまいんだろう」
ジョシュが、くやしそうに壁をこぶしでなぐる。
「本人に聞いてみろ」
そう言ってトビーは天井を見上げ、ため息をついた。
「リュウってビリヤード上手ねえ」
「なんだかとってもかっこよかったわ」
「それにセクシー」
「はあ、どうも」
女性たちにちやほやされながら、リュウイチの心の中では後悔の嵐が吹き荒れていた。手加減したら承知しないと言われて、つい、本気をだしてしまったのだ。適当に負けておけばよかった。
「ねえ、どうしてビリアードがうまいの？」
ジョシュは小首をかしげ、ななめにリュウイチの顔を見上げた。
「子どものころ、義理のパパに教わったんです。中国３千年の秘術だって」（ほんとは将来女の子にもてるようにと、特訓されました……作者注）
「ふうん……あのさ、全員に勝ったからって、調子にのったりしないよね」
「そんなことしません」
「今日は、みんなたまたま調子が悪かっただけなんだから」
「ええ、わかってます」
「それならいいけど」
「ばっかみたい」
エイミーは鼻の上にしわをよせた。
ＳＣＥＮＥ１１
「リュウ、カードが届いてるわよ。はい」
「すみません、アビーさん……あ、クレッグさんからだ」
メリークリスマスの文字の下には、キスマークがついていた。
アビーはさっとカードを取り上げた。
「あ、返してくださいよ〜」
「なあに？」
「見て見て、スーザン。ほら」
「あら、リュウったらすみにおけないわね」
「ち、違いますっ！ガールフレンドじゃありませんっ！」
よりによってスーザンに、誤解をされてはたまらない。
「こ、この人はパパの古い知り合いで、僕も子どもの頃から知ってるし。だからふざけてるんです」
「おい、こんなところで遊んでないで、さっさとオペ室に入れ……なんだ、このカードは。誰からだ？」
「ほら、パパの知り合いの」
「知らんぞこんなやつ。お前の新しいガールフレンドか？」
「古いも新しいも、僕にはガールフレンドなんかひとりもいませんっ！」
「その年になって、情けないやつだな。とても俺の息子とは思えん……ひょっとしてお前、ゲイか？」
「違います」
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_
_)m
今回はクリスマスエピです(^^)『ザ・ホワイトハウス』とのクロスオーバー。
１２月１６日、レオ・マクギャリー役のJohn
Spencer氏が亡くなりました。このおはなしは、追悼の心をこめて書きましたm(_
_)m例によってどたばたコメディーで、どこが追悼？という感じですが(^_^;気分を害された方、ごめんなさいm(_
_)mあと、『ザ・ホワイトハウス』をご覧になられていない方には？なお話だったと思います。ごめんなさいm(_
_)m
これが今年の最終エピになります。どうもありがとうございましたm(_
_)m次回はまた書けたらＵＰいたします。来年もどうぞよろしくお願いいたしますm(_
_)m