ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ４２ 「ＦＲＥＥＦＡＬＬ」 ＡＮＯＴＨＥＲ ＶＥＲＳＩＯＮ
「じゃあ、これからＥＲを案内するからね」
「はいっ！よろしくお願いします！」
「何かパパに言われた？」
「ええと、『知ったかぶりをするんじゃない。できないことはできないってちゃんと言え。知ったかぶりはお前と患者の”命取り”になるんだぞ』って」
「あ、それ俺も親父に言われた。っていうか兄貴のやつ、昔自分が親父に言われたことを、そのまま言ってるんじゃん……カズ、そんなにしゃちほこばらなくてもいいよ。もっとリラックスしなきゃ。まあ、実習の初日だから緊張するのはわかるけど。俺にも覚えがあるからさ」
２４歳になったカズネは無理に笑顔を浮かべたが、ほおのあたりがこわばっている。
「でもね、ジェフ。僕、うまくやっていけるかどうか、すごく心配なんだ」
「大丈夫、チーフ・レジデントの俺がついてる」
「偉そうなこと言っちゃって」
「エラ！オペじゃなかったのか？」
手術着姿のエラは腕組みをし、胸をそらせた。
「オペは９時からよ。カズの記念すべき実習初日をちょっとのぞきにきたの。がんばりなさいよ、カズ。ふふっ、外科実習が楽しみだわ。あんたは将来外科医になるんだから、しっかりしごいてあげる。覚悟しといて」
ジェフは顔をしかめた。
「エラ、プレッシャーをかけるのはやめろ。ただでさえカズは、緊張でガチガチなんだから」
「甘やかしちゃダメよ、ジェフ」
「わかってる」
「返事は『はい』でしょ」
「うるさいなあ！」
「何よ！その言い方！」
「おいおい、みっともないよ。いい年してきょうだいげんかは」
「兄貴！」
「お兄ちゃん！……オペじゃなかったの？」
「誰かさんが自分の早朝オペを入れたから、ずれちゃったんだ。年寄りは早く目が覚めるからいいんだろうけど、患者もアシストするみんなも、すごく迷惑だと思うよ……カズ、いよいよだね。がんばって」
「誰が年寄りだって？」
「おじいちゃん！」
「パパ！どうしてこんなところにいるのよ」
「俺だけじゃないぞ、ほれ」
ロマノはあごをしゃくった。
「ママ！一体何の用事？ひょっとしてカズを見に来たの？」
ジェフがあきれて言った。
「今日はカズの記念すべき実習初日だ。見に来てなにが悪い。なあ、リジー」
「そうよ。あたりまえでしょ」
「もう！いつも言ってるだろ。パパやママ、それから兄貴に口出しされたら、俺もエラもすごくやりにくいんだ」
「そうよそうよ。まったく困った人たち！」
ロマノもエリザベスもリュウイチも、ふたりの苦情を、聞こえないふりをして無視している。
１４年前、屋上から転落したリュウイチは、マニングと重なったままキャンバス製の屋根にバウンドしたあと、搬入口に止まっていた救急車の上に落下した。地面にたたきつけられたマニングは即死だったが、リュウイチは奇跡的に命をとりとめたのである。銃創と、転落による手足の骨折の回復には２年近くかかったが……。
「カズ、患者を殺すなよ」
「パパ、そういう言い方をカズにしないでください」
「じゃあどう言うんだ」
「もっとやさしく。患者を殺したら承知しないからねって」
「どこがやさしいんだよ」
「ママがＥＲ部長だからって、甘えちゃだめよ」
エリザベスは、カズネを抱きしめてキスをした。
「もうっ！どうしてみんな、カズにプレッシャーをかけるんだ！」
「プレッシャーをかけて厳しく育てると、僕みたいな名医になれるんだよ。だから心を鬼にしてるってわけ」
「お前も俺の気持がやっとわかるようになったか、リュウ」
「パパの場合、いじわるは地でしょう」
「そうだそうだ。兄貴に賛成」
「なんだと！」
「ママは私に、感情的になりすぎるわ。お兄ちゃんやジェフには甘いのに」
「それはあなたのひがみよ、エラ」
「違うわ」
「違わない」
「違います！」
「もう！小さいときから強情っぱりなんだからっ！いったい誰に似たのかしら！」
「お願い、みんなけんかしないで……っていうか、僕の実習のじゃまをするのはやめて」
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_
_)m
今回のお話の結末はふた通りということで……。どちらでもお好きなほうをm(_
_)m
次回はまた書けたらＵＰいたしますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_
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