ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ３９ 「ＡＮＯＴＨＥＲ ”ＢＲＯＴＨＥＲＳ ＡＮＤ ＳＩＳＴＥＲＳ”」
今回のお話は、第８シーズン第１９話『緊急事態
ＢＲＯＴＨＥＲＳ ＡＮＤ ＳＩＳＴＥＲＳ』のサイドストーリーです。原作の雰囲気や余韻その他もろもろ、すっかりぶち壊し間違いなしのお話なので、お読みになると、ご気分を害される方も多いのではと思います。「そんなのいつもじゃん。何今頃言ってんだ。この馬鹿（冷笑）」と思われる方だけ、どうぞお読みくださいませm(_
_)m
ＳＣＥＮＥ１
時刻は夜中の２時。リュウイチはＥＲのラウンジでグリーンのロッカーを見つめていた。彼が病院を去ってから、ひと月がたとうとしている。あの最後のシフトの日、リュウイチは夜勤で、ちょうど帰ろうとしているグリーンと出くわしたのだった。
「こんばんは」
「これから夜勤？」
「ええ、そうなんです」
「がんばって、リュウ」
グリーンはにっこり笑うと、リュウイチが小さいころよくそうしていたように、頭をぽんぽんとたたいた。微妙な胸騒ぎのようなものを感じて、思わずあとを追おうとしたのだが、急患が運ばれてきたのでそのままになった。
グリーンがいないＥＲなど想像もつかなかったが、彼は行ってしまったのだ。
リュウイチはついグリーンの姿を探してしまい、そのたびに胸が痛くなった。「僕の合図で移して！１、２、３！」と聞こえた気がして、はっとすることもしょっちゅうだった。リュウイチだけではない。ＥＲのみんながそうだった。あのウィーバーでさえ、患者が立て込んで、思わず「マーク！」と叫んだことが１度ならずあった。
『臨床実習の最初の日、グリーン先生にＥＲを案内してもらったっけ……。ドクターになった初日も、ここで”おはよう、ドクター・リュウ”って言ってくれた……でも、先生はもうここにはいないんだ』
「リュウ！銃創患者がふたり来るってさ！」
飛び出してきたリュウイチの目が赤くはれているのを、ランディは見て見ぬふりをした。
ＳＣＥＮＥ２
「リュウ先生！」
ガラントが叫んだ。
「心膜がクロットでいっぱいだ」
プラットが絶句する。そのとき、リュウイチがいきおいよく入ってきた。
「ガラント、どうかしましたか？……何してるんだっ！」
リュウイチはグローブをはめるとSatinsky鉗子をつかみ、すばやくクランプした。
ガラントはほっと胸をなでおろしながら、リュウイチの手技を見ている。プラットは部屋を出て行こうとした。
「プラット！君の患者だろう」
ふくれつらをして戻る。
「ふう……これでＯＫ。なんとかオペ室へ運べるぞ……」
リュウイチが受話器を取り、外科に連絡していると、カーターが飛び込んできた。
「お前たちいったい……」
「勝手に開胸したみたいです」
「なんだって！」
リュウイチはまっすぐにプラットを見た。その口調は静かだったが、怒りで声がかすれている。
「ガラントがこんなことをするはずがない。君がやったんだろう？プラット」
プラットはリュウイチをにらみつけると、腕組みをしながらごう然と胸をそらした。
「助けようと思ったんだ」
「患者は死ぬかもしれない。思い上がるのもいい加減にしろ」
「あとは僕がよく言っておく。ありがとう、リュウ」
カーターがリュウイチの肩をたたいた。
ＳＣＥＮＥ３
リュウイチがオペ室に入ってきた。
「急に呼び出さないでくださいよ。僕にだって予定があるんですから」
「つべこべ言うな。リジーに電話がかかってきたんだ」
「誰からですか？」
「ハワイのレイチェル」
「……どうしたんだろう」
「おい！手を止めるな！」
「はい！すみません」
「まったく！どうしてこの患者はこんなになったんだ。あの態度のでかい新顔のせいなんだろう？」
「さあ」
リュウイチが肩をすくめる。
「処置を引き継いだくせに知らんのか」
「あんまり忙しかったから、もう忘れちゃいました」
ＳＣＥＮＥ４
「オペは無事に終わったよ。患者は助かった」
ガラントは思わず立ち上がった。
「本当ですか？リュウ先生」
「うん、大変だったけど」
「すみません」
「あのとき誰かを呼びに行くべきだったね」
「はい」
「これからは気をつけて」
「はい」
「ラウンジで謹慎かあ。なつかしいな」
リュウイチはミルクティーを飲みながらほほえんだ。
ＳＣＥＮＥ５
「……よかった」
患者が無事だったと聞いて、カーターは受付のいすにためいきをつきながらこしをおろした。そこへプラットが通りかかる。
「患者は助かったよ」
「俺が助けたんだ……おい！なにするんだ！」
いきなりほおをなぐられて、プラットがよろける。なぐったリュウイチは、はっと我に返った。
「ごめんなさい！」
あわててあやまるリュウイチのほおに、充分に体重を乗せたプラットのパンチが炸裂した。ふっとんで、カウンターの角にひたいをぶつけたリュウイチは、しりもちをついたまま叫んだ。
「何が助けただ！患者はもうちょっとで死ぬところだったんだぞ！君は患者を殺しかけたんだ！」
「ふん、パパにえこひいきされてる情けないやつに、説教される筋合いはないね」
立ち上がってなぐりかかろうとしたリュウイチの肩を、誰かが押さえた。
「リジーがハワイへ行くぞ」
リュウイチが驚いてふりむく。
「グリーンの体調が悪いらしい」
「迎えに行くんですか？」
「いいや」
父と子は無言で見つめ合った。次の瞬間リュウイチは駆け出していた。
ロマノはあごをなでながら、プラットに言った。
「あいにく私はえこひいきするほど暇じゃないんだ。お前が息子だったらとっくにクビだな」
ＳＣＥＮＥ６
「エリザベス先生！」
リュウイチはエリザベスのオフィスに飛び込んだ。
「……リュウ！どうしたの？顔が血だらけ。ほっぺたもはれてるし」
「え？……ああ、さっきぶつけちゃったんです」
「ちょっと見せて……これは縫合しないと」
「大丈夫です。後で誰かにやってもらいますから」
「じゃあ……」
エリザベスはガーゼとばんそうこうで、応急処置をした。
「ありがとうございます……先生、ハワイに行かれるんですって？」
エリザベスはしばらくうつむいていたが、やがて顔をあげ、きっぱりと言った。
「ええ……マークの最期を看取るためにね」
リュウイチは、無言でエリザベスをぎゅうっと抱きしめた。最初は少し驚いていたエリザベスだったが、やがてリュウイチの胸に顔を埋めて泣き出した。リュウイチの目からも涙があふれでる。しばらくして、エリザベスはそっとリュウイチからはなれた。
「僕にはもう、なにもできることがない……ごめんなさい」
エリザベスが無言でかぶりをふった。涙をぬぐい、にっこり笑う。
「これで泣かないで行けるわ。ありがとう」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
ＳＣＥＮＥ７
「ねえねえ、おでこの傷、縫合してよ」
「どうして俺がそんなくだらないことをしなきゃならんのだ。プラットにやらせろ。あいつのせいでそうなったんだろう」
「えー、だめだよプラットは。傷が残ってお婿に行けなくなっちゃう」
「俺の知ったこっちゃない」
「……いいよ、自分でやるから……でも、髪の毛がじゃまになって、やりにくいんだよね。誰かさんと違っ……うわあ！」
足を払われて、うつぶせに転倒した。背中を思いきりロマノが踏みつける。
「やめてよ！」
手足をばたばたさせながら、リュウイチは悲鳴を上げた。
ＳＣＥＮＥ８
グリーンの死後、しばらくロンドンに帰っていたエリザベスが、またシカゴに戻ってきた。
「さあ、シカゴに帰ってきたわよ、エラ」
空港でエリザベスは、ベビーカーを押し、カートをひっぱって歩き出した。１０メートルほど歩いたところで、手がすっと伸びてきて、カートを押さえた。
「……ロバート！……どうして？」
「リュウが急用で来られなくなったんだ」
本当は、ロマノに急用ができ、それを押しつけられたためにリュウイチは来ることができなかったのだが……。
ロマノはバッグを肩にかつぎ、カートのハンドルに手をかけた。そしてエリザベスの目を見つめ、静かに言った。
「おかえり、リジー」
「……ただいま」
突然エリザベスの顔がゆがみ、涙がぽろぽろとこぼれた。そのままロマノにすがって号泣する。ロマノは赤ん坊をあやすように、やさしく背中をたたいてやった。
「大丈夫か？」
「ええ」
エリザベスは照れくさそうに、そっぽを向きながら答えた。ロマノがにやりと笑う。
「泣きたいときは泣けばいい。私の胸ならいつでも貸してやるぞ」
「いいえ、リュウに借りるからいいわ」
ロマノは笑顔のまま、側にあったゴミ箱に、持っていた紙袋を投げ入れた。ひそかにこぶしをにぎりしめる。
そのころリュウイチは、ＥＲで忙しく働いていた。
『もう空港に着いたころだ。パパ、ちゃんとクッキーわたしてくれたかなあ』
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m気分を害された方、ごめんなさいm(_ _)m
シーズン９−１にエリザベスがヒースロー空港行きの列車に乗るシーンがありましたが、ＳＣＥＮＥ８はあれの続きってことで(^_^;
プラットはどうしても好きになれません(笑)ガラントは好き(^^)
次回はまた書けたらＵＰいたしますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_
_)m