ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ ３８ 「ＴＨＥ ＰＡＲＴＹ」
ＳＣＥＮＥ１
今日は大統領夫人の誕生日パーティー。ファンファーレと共に大統領夫妻が入場した。続いてピアノで、『ハッピーバースデー』が流れる。
「あら、リュウ！」
アビーが目を丸くする。
「私からの誕生日プレゼントだ」
「ありがとう、ジェド」
「どういたしまして。好きな曲を弾いてくれるそうだ。何でもリクエストするといい」
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、リュウ。とっても素敵な演奏だったわ」
「ありがとうございます」
「プリンス・リュウ、一緒に写真を撮ってくださる？」
中年の婦人がリュウイチの腕をとった。
女性はみんなリュウイチと写真を撮りたがった。腕を組まされたり、抱きつかれたり、はたまたキスをされたりと、いわゆるもみくちゃ状態である。
「ジョシュ、あの子誰？」
「知らないの？エイミー。プリンス・リュウっていうあだ名のピアニスト。１０年近くドリーム・コンサートに参加してるんだ。本職は外科のドクターなんだけどね」
「へえ、すごい……でも彼、とってもかわいいわね」
「そうかな……男がかわいいってのはどうかと思うけど……情けない感じがしない？」
「いいじゃない、男の子がかわいくても。私、かわいい男の子って大好き」
「そう？かわいい方がいいの？」
「あたりまえでしょ」
『僕ってかわいいかな……部長やサムよりはかわいいと思うんだけど……今度ドナに聞いてみよう』
ＳＣＥＮＥ２
「女同士で飲みましょ」
アビーに言われ、グラスとワインのボトルを持ったＣＪの前方で、リュウイチがトビーと談笑していた。
「ＣＪ」
ふりむくと、アビーがうなずいた。ＣＪもうなずきながら言った。
「飲みましょう……かわいい男の子をいじめながら」
「リュウ！ちょっといらっしゃい！」
アビーがリュウイチを手招きする。
「はい！……それじゃあ失礼します」
リュウイチはにっこり笑って会釈をした。
「……かわいそうに」
トビーがリュウイチの背中に向かってつぶやいた。
ＳＣＥＮＥ３
「じゃあ、一番先につぶれた人が負け。負けた人は罰ゲーム。いいわね」
「そんな！クレッグさん、僕、あんまりお酒飲めないんです」
「知ってる」
「僕が負けるにきまってるじゃありませんか」
「あらそう？」
「ひどいですよ！」
「異議のある人……誰もいないでしょ」
「リュウはドクターなんですってね」
エイミーが、リュウイチにワインをついでやりながら言った。
「ええ、外科とＥＲの３年目のレジデントです」
「外科とＥＲの両方？」
「かけもちなんです」
「優秀なのね」
「いいえ、単にこきつかおうという魂胆なんだと思います」
「リュウは、パパみたいな外科医になりたいんでしょ？」
ドナがリュウイチのグラスにつぎたした。
「そりゃそうよね、ロケット・ロマノの息子としては」
アビーがほほえんだ。
「リュウのパパをご存知なんですか？」
ＣＪがちょっと驚いて、アビーを見つめた。
「ええ、以前学会で。有名人だもの。腕がよくて……ふふ……口が悪くて」
「すみません」
「あやまらなくてもいいのよ、リュウ。私は何も言われてないから」
「よかった」
「お茶に誘われたけど」
「え〜っ！」
「ずーっと前の話」
「ごめんなさい！」
「悪いと思うんだったら、飲みなさい」
アビーがリュウイチのグラスに、なみなみとワインを注ぐ。
「外科医っていってもいろいろあるでしょう？脳外科とか胸部外科とか」
「えーと、クレッグさん。僕、レジデンシーが終わったら、外傷フェローになりたいと思ってるんです」
「外傷フェロー？」
「ええ、所属は外科なんですけど、要請があればＥＲで外傷担当の外科医として働くんです。でもそのためには、再来年チーフ・レジデントにならないと」
「じゃあ、これ飲んでがんばって」
ＣＪはどぼどぼとワインをついだ。
ＳＣＥＮＥ４
リュウイチはロマノの顔を思い浮かべ、心の中で悪態をついた。ただでさえグラス２杯が精一杯なのに、夕べは夜勤で、おまけに飛行機に乗るぎりぎりまで勤務だったのだ。年代ものの高級ワインでとてもおいしかったが、それどころではない。４人に次々とつがれて、早くも天井が回り始めていた。
『どんな罰ゲームなのかな……』
「あら、もう？」
エイミーが、リュウイチの顔をのぞきこんだ。ドナがほおをつつく。
「グラス２杯が最高記録って言ってたから……完全につぶれてる」
「今日はがんばったわね。３杯飲んだわよ」
ＣＪはにっこり笑った。アビーがリュウイチの呼吸を確かめ、脈をはかる。
「大丈夫、心配ないわ。……さあ、罰ゲームは何にする？」
ＳＣＥＮＥ５
「うわあ！何これ！」
リュウイチは飛び起きた。酔いがいっぺんにさめる。黒のロングドレスを着せられていたのだ。テーブルの上にメモがあった。
『そのままの格好でパーティー会場へいらっしゃい。ドレスを脱いだら銃殺よ』
「そ、そんな……」
思わず立ち上がると、身体が大きく前方へかしいだ。あわててソファーにつかまる。
「ひょえ〜ハイヒールまではかされてるよ……あっ！」
くちびるを指でなで、ため息をつく。化粧もばっちりほどこされていたのだ。
ＳＣＥＮＥ６
リュウイチが会場に戻ると、どよめきが起きた。先程と反対に、今度は男性が押し寄せてくる。ドレスはハイネックでのどぼとけも隠れていたし、化粧もしていた。その上きゃしゃなので、完全に女性、それも非常に美しい女性に見えるのだ。
「お嬢さん、あなたの胸をさわらせてもらえませんか」
リュウイチは心の中でため息をついた。
『そりゃあ完璧な胸でしょうよ。なにせ詰め物なんだから。さわってもいいですけど、叫んだりしないでくださいね、マーベリー卿』
にっこり笑って、その場を逃れる。
「どこかでお会いしたような気がするんだけど、そんなはずないよね。君みたいにきれいな人のことは、一度会ったら忘れるはずがない……あー、どうかな、あとでお茶でも」
「お会いしてますよ、シーボーンさん、パーティーの前にオフィスで。お茶にご一緒しますから、ドーナツ１０個おごってくださいね」
「……リュウ！」
サムは絶句し、その場に立ち尽くした。
「どうかした？サム」
「あ、ジョシュ……今あの子をお茶に誘ったら、ＯＫだって」
「うそだろ！」
「いや、ほんと」
ジョシュは人ごみをかき分け、リュウイチの前に回りこんだ。
「あー失礼。前にどこかでお会いしたことは……ないと思うんだけど。君みたいに美しい人に会ったら覚えてなきゃおかしいから……どうだろう、あとでお茶でも」
「エイミーさんに言いつけますよ、ライマンさん」
「……リュウ！」
ぼうっとしているジョシュの耳を、エイミーが引っぱった。
「ジョシュ、あなたって人は！」
「違うよ、エイミー！あれはリュウなんだ」
「リュウですって？あきれたわ！誰でもいいのね！もう！信じられない！」
「いや、そうじゃないんだ。落ち着いて。ちゃんと話すよ。だってサムが……あああっ！くそっ！サムのやつっ！」
「あー、どこかでお会いしたかな……」
「ええさっき、ファーストレディーに誘われる前に、あなたとお話してました。ジーグラーさん」
「……ひょっとして、リュウなのか？」
「ひょっとしなくてもそうです」
「なんでそんなかっこしてるんだ」
「飲みくらべをして、負けた罰ゲームなんです」
「飲みくらべって言ったって、君、酒は弱いだろう？」
「ええ、みんな知ってて……ひどいでしょ」
「かわいそうに。そんなことじゃないかと思ってたんだ」
「じゃあどうしてさっき誘われたとき、言ってくれなかったんですか。行くなって」
「君より自分の身の方がかわいいからに決まってるだろう」
「…………」
「女装はくせになるぞ。気をつけたほうがいい」
「どこからいらしたのかな」
「シカゴです」
「それは奇遇だ。私もシカゴ出身でね」
「ええ知ってます。マクギャリーさん」
「……リュウ！……紛らわしい格好をするんじゃない……そういう趣味があるとは聞いていなかったぞ」
「レオ、そのきれいなお嬢さんは君の知り合いか？」
「ええ、まあそうです。大統領」
「すみにおけないなあ、レオ。私にも紹介してくれ」
「あなたがリュウをパーティーに呼んだんでしょ、ジェド」
アビーに背後から声をかけられ、バートレットはふりむいた。
「リュウ？この子が？そんな馬鹿な！」
「それよりジェド、リュウを紹介してもらってどうしようと思ったの？」
「いや、別に。名前を知りたかっただけだ」
「うそおっしゃい」
「じゃあ行こうか、リュウ」
「はい」
「行かんでいい。大勢で話をしたほうが、ずっと楽しいぞ」
「いいえ大統領、我々はご遠慮します」
「待て！レオ！ふたりにしないでくれ！」
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
今回は『ザ・ホワイトハウス』とのクロスオーバーエピです。『ザ・ホワイトハウス』３−１５『大統領夫人の決断』（ＤＥＡＤ ＩＲＩＳＨ ＷＲＩＴＥＲＳ）のパーティーの場面を見ていて思いつきました。悪ふざけいっぱいのどたばたになってしまいましたが、気分を害された方、ごめんなさいm(_
_)mあと、『ザ・ホワイトハウス』をご覧になられていない方には？なお話だったと思います。ごめんなさいm(_
_)m
次回はまた書けたらＵＰいたしますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_
_)m