THE GENTLE DRAGON

 

 

 

SIDE STORY 28  「THE TWINS」  

 

 

SCENE1
 「リューリュー、お客さんって誰?」
エラが、キッチンで忙しく立ち働いているリュウイチのシャツのすそをひっぱった。
「ママとマーク・パパのお友達だよ」
「パパはお友達じゃないの?」
『”どうしてあいつを俺の家に泊めなきゃならんのだ!”って言ってたよな。それをママに怒られて、しぶしぶ承知したと……お友達じゃなさそうだね……』


 そのころ、ロマノ家に向かう車の中では……。

 「どうして俺があいつの家に泊まらなきゃならないんだ!」
「まだそんなこと言ってるの?エリザベスの好意を無駄にする気?子どもたちもエラに会うのを楽しみにしてるのに」
「エリザベスとエラには俺も会いたいけど……どうしてエリザベスはロマノなんかと結婚したんだ?この世の中、他に男はいくらでもいるってのに」
「そういうことを向こうで言わないでよ。ちゃんとお行儀よくしてちょうだい」
「うるさいなあ」
「なによ、その言い方」
「子どもじゃないんだから、いちいち言わないでくれ」
「子どもでしょう。自覚ないの?」
「なんだって!俺のどこが子どもなんだ!」
「全部よ!なにもかも!仕事以外はね!」
「はい、ストップ。けんかはおしまい」
「ちゃんと仲直りのキスをしてね」
「はいはい、わかりましたよ、お嬢様方」
「……ちょっとダグ、前を見て。あぶないわよ……」

 シカゴで開かれる学会にロスが出席するため、キャロルと双子の娘ケイトとテスも一緒にやって来たのだった。グリーンの墓参りをしたあと、ロマノ家に泊まる予定なのである。ケイトとテスは6歳、エラよりひとつ年上であった。



SCENE2
 「お久しぶり!元気だった?まあ、双子ちゃんたちも大きくなって」
「ほんとにお久しぶり!エラも大きくなったわね。この子がジェフ?ちょっと抱っこさせて」
「久しぶりだな、ドクター・ロス。てっきり裏庭で銃殺されたと思ってたんだが、元気そうでなによりだ」
「ええ、おかげさまで。エリザベスがあなたのような人と結婚しただなんて、いまだに信じられません。ドクター・ロマノ、お招きいただいて、ありがとうございます」
エリザベスとキャロルににらまれ、ロマノとロスはとってつけたように、にこやかに握手をかわした。『おりこうにしてないと、あとでひどいわよ』と、それぞれの奥方に言い渡されていたのを、ふたりとも思い出したのである。

 ロスたちがソファでコーヒーを飲んでいると、チャイムが鳴った。
「ごめんなさい!遅くなって!」
「スーザン!」
「キャロル!ダグ!」
3人は抱き合って、再会を喜び合った。
「キャロルがダグを追っかけてシアトルへ行ったって聞いて、ほんとによかったなあって思ってたの……ケイトとテス?まあ、そっくりね。どっちがどっちだか全然わかんない」
「ピンクのTシャツがケイトで、ブルーがテス。スーザンがカウンティへ戻ったって聞いて、私もダグも、すごくびっくりしたのよ」
「あいかわらずの毎日よ……戻ってよかったこともあるけど」
「なあに?」
「またあとで話す」

 「用意ができましたので、皆さん、庭へどうぞ」
リュウイチがにこにこしながら言った。



SCENE3
 この日の夕食は、庭でのバーベキュー。リュウイチが火加減を調節しながら、肉や魚、野菜を焼いている。
「さすがはリュウね。とってもおいしいわ」
「ありがとう、スーザン。中華料理のフルコースとどっちにしようか迷ったんだけど、バーベキューの方が、子どもたちが喜ぶかなと思って」

 グリルの前で話をしているリュウイチとス−ザンを見ながら、キャロルが言った。
「ねえ、エリザベス。なんだかあのふたり、仲いいわね」
「そりゃそうよ。つきあってるんだもの」
「えーっ!ほんと?ちょっとダグ!」
「キャロル、大声出すなよ」
「スーザンが、リュウとつきあってるんですって!」
「そりゃすごい!ずいぶん歳が離れてるだろう?」
「リュウっていくつ?」
「もうすぐ25」
「これはとっちめてやらなきゃ……スーザン!」

 「なあに?」
「あなた、リュウとつきあってるんですって?」
「ええ、そうよ。うらやましいでしょ」
「いいな。あんな若くてかわいい子とつきあってるだなんて」
「おい、キャロル。今のはどういう意味だ?」
「あなたはだまってて」
「はいはい」

 「あんまりかわいいんで、食べちゃったとか?」
「いやあねえ、違うわよ。リュウが私にひとめぼれしたの。それからずーっと思ってくれてて、告白されたのが、2年前のクリスマスの次の日。場所はERのカーテン1号」
「勤務中に?」
「まさか。リュウが急性アルコール中毒で倒れちゃって」
「どうして?」
「お酒の力を借りて告白しようとして、飲みすぎたの」
「かわいい!」
「でしょ」
「あ、もしかして、カウンティに戻ってよかったことって、これ?」
「まあね」
「それで、幸せ太りってわけね」
「もう!キャロルったら!」



SCENE4
 ロマノはエラをひざにのせ、焼いた肉をレタスと一緒にパンにはさんで、サンドイッチを作ってやっていた。
「さあ、エラ。たくさん食べないと、大きくなれんぞ」
ふと視線を感じて横を向くと、双子が手をつないで、こちらを見ていた。思わずロマノはほほえんだ。
「ケイトもテスもサンドイッチを食べるか?」
うなずくふたりに、すばやくもうふたつサンドイッチを作り、手招きをする。
「さあ、できたぞ。たくさん食べろよ。ジュースも飲むか?」
「エラもジュース飲みたい」
「よしよし」
ロマノはオレンジジュースを、3つのコップにつぎわけた。
 少し離れたところで、ビールを飲みながらこの様子を見ていたロスは、
『へえ、ロケット・ロマノが子ども好きとはね……娘にめろめろで見ちゃいられないな……エラもすごくなついてるし……いったいどうなってるんだ?』
などと思っていた。

 「マシュマロサンドを食べる人!」
「は〜〜い!」
子どもたちがいっせいに返事をする。

 「パパ、エラね、マシュマロ焼きたいの」
エラはロマノに抱かれて、串に刺したマシュマロを焼いた。
「もうそれくらいでいいぞ」
用意していたクッキーとチョコレートの間に、リュウイチがマシュマロをはさむ。
「はい、できたよ、エラ」
その様子をじっと見ていたケイトとテスも言った。
「パパ、テスもマシュマロ焼く」
「パパ、抱っこして」
両腕に娘をひとりずつ抱いて、うれしそうにしているロスを見ながらロマノは、
『プレイ・ボーイも形無しだな……あのだらしない目じりの下がりよう……人間変われば変わるもんだ』
と思った。



SCENE5
 ケイトがエラに言った。
「ケイトとテスは双子よ。おそろいなの。いいでしょ」
テスも言った。
「ふたりでおそろいなのよ。いいでしょ」
エラは胸をはって言った。
「エラにはパパがふたりいるもん」
「ふたり?」
「うん。パパとマーク・パパ」
「おそろい?」
「おそろいよ。ふたりともはげてるもん」
大人たちは、ロマノ以外の全員が爆笑した。

 さらにエラは言った。
「エラには弟がいるのよ。いいでしょ」
「テスとケイトにも弟が生まれるもん」
ロスとキャロルは、大人たちに見つめられて、あわててかぶりをふった。
「いつ?」
エラがたずねる。
「クリスマス」
「絶対弟だもん」
 「大変!これから毎日、弟がほしいって言われるわ」
「まいったな」
キャロルとロスが顔を見合わせる。

 「あとエラにはね、お兄ちゃんもいるの」
「お兄ちゃんって、リューリュー?」
「そうよ。かっこいいでしょ」
「うん、かっこいい」
「とってもすてき」
お兄ちゃんは弟みたいに、これから生まれてくるというわけにはいかない。沈黙してしまった双子たちを、エラも気の毒に思ったのだろう。にっこり笑って言った。
「ママがパパと結婚したときに、リューリューもエラのお兄ちゃんになったの。だからケイトとテスも、ママがかっこいいお兄ちゃんがいる人と結婚すればいいのよ」
「そうなの?」
「そうよ」
「やったあ!」
「あとでママにお願いしよっ!」
すっかり盛り上がってしまっている子どもたちを見ながら、ロスがつぶやいた。
「……俺はどうなるんだ……」



SCENE6
 スーザンは明日早番なので家に帰った。エラと双子ははしゃぎすぎたせいかぐっすり眠ってしまい、大人たちはソファーでゆったりと過ごしていた。リュウイチが思いつめた表情で、ブランデーのグラスをかたむけているロスに言った。
「僕、先生にお聞きしたいことがあるんです」
「なんだい?」
「先生はキャロルさんに、なんてプロポ−ズしたんですか?」
「どうしていきなり、そんなことを?」
「すみません……実は僕……スーザンにプロポーズしようと思っていて……」
「まあ!」
「ほんとか!」
「すてき!」
「やったな!」
「……どういうふうに言おうか、悩んでるんです」
「俺のなんか参考にしなくても、親父さんのをお手本にすればいいじゃないか」
「うちは多数決で決まったので」
「?」
「パパとママと僕とエラの4人で多数決をしたんです」
「やっぱりな。3対1だったんだろう?」
「全員一致だ!」
「もう、ダグったら!ごめんなさいね、ロマノ先生」
「いいんですよ。病院中の人が、いまだにママが3対1で押し切られたって思ってますか……痛いっ!」
リュウイチは、ロマノに蹴られた足をさすった。

 ロスは頭をかいたり、あごをなでたりと落ち着かない。とうとうじれたキャロルが口を開いた。
「私がダグを追っかけてシアトルまで行ったの。だから参考にはならないわ」
「そうだったんですか。でも、キャロルさん、かっこいいなあ」
「あの時はびっくりしたわ。いきなり飛行機に飛び乗ったのよね。マークも驚いてた」
「……そうだ!マークはエリザベスに、なんてプロポーズしたんだ?」
話題を変えようと勢い込んで言ったダグだが、キャロルに猛烈ににらまれてしまった。
「……ごめん、悪かった……」
「……あー、リジー、君さえよければ、俺も聞きたいんだが……」
 
 エリザベスは、眠りかけているジェフをそっと抱きなおし、ほほえみながら話し始めた。
「ある家に連れて行かれて……とっても素敵な家だったから私がそう言ったら、この家を買ったんだよって……キッチンに冷蔵庫が置いてあって、マークが、開けてごらん。製氷機がすごいんだって……開けたら氷の上に指輪がのってて……『これしか言えないよ……エリザベス、愛してる。僕に喜びと名誉を与えてくれ、君の夫として』って言われたの……」
エリザベスはほおの涙をぬぐい、にっこり笑った。ロスはうつむき、キャロルはハンカチをさがした。リュウイチが泣きながら、ソファーの下からティッシュの箱を取り出すと、ロマノが先にさっと手を伸ばし、盛大に鼻をかんだ。

 「……シュウ・パパやグリーン先生みたいに、僕も家を買おうかな……でもやっぱり、まねしたんじゃだめだよね……どうしよう……」
「ピアノを弾け」
「それはまっさきに考えたんだよ、パパ。でも、弾いただけじゃプロポーズってわからないし」
「結婚行進曲を弾けばいいだろう」
「そんなのすごく露骨で、ムードもへったくれもないよ……ああ、なんて言おう……一生あなたのしもべになりますって言おうかな」
「この馬鹿!しもべになってどうするんだ!」
「女ってのはすぐつけあがるんだぞ。最初が肝心なんだ」
「ふたりに言われても、説得力ないような気が……」
「なんだと」
「今のは聞き捨てならないな……まるで俺たちが女房の尻にしかれてるような言い方だぞ」
「お前はしっかり、しかれてるだろう」
「俺はしかれてません。しかれてるのは、あなたのほうだ」
「おい、俺にけんかを売るのか?」
「売ったのはそっちでしょう」
「ロバート!」
「ダグ!」
「……君がお客様だということを、失念していた」
「私もおとなげなかったです。ドクター・ロマノ」
「ほらね」
ロマノとロスが同時に聞いた。
「なにか言ったか?」
「いいえ」

 「どこで言われようと、なんと言われようと、そんなの関係ないわ、リュウ。愛する人に言われるっていうことが、一番大事なの」
「エリザベスの言う通りよ。……たとえ多数決でも、自分が追っかけて行ったのでもいいの。好きな人と一緒にいられればそれで……」
「そうよ」
エリザベスとキャロルはほほえみあった。



SCENE7
 ある日の早朝……。

 夜勤を終えたスーザンは、帰り支度をしようとラウンジにやって来た。
「おはよう、スーザン」
「おはよう、リュウ。あーびっくりした」
「ごめんね」
「いいのよ」
リュウイチが手術着姿なのを見て、スーザンはたずねた。
「今からオペ?」
「勤務は8時から……スーザン、ちょっと来てほしいんだ」
リュウイチはスーザンを、カーテン3号と医薬品保管所の間の廊下に連れ出した。

 「僕はここで初めてスーザンに会った。だから、ここで言いたかったんだ……僕と結婚してください」
リュウイチは指輪の入った小箱を、スーザンに差し出した。スーザンは目をまん丸にし、口をOの字に開けたままかたまってしまっている。あまり長らくスーザンが黙っているので、リュウイチは泣きそうな顔で言った。
「答えはYes?……それともNo?」
スーザンの顔に笑みが広がり、
「もちろんYesよ、リュウ」
そう言って指輪を受け取った。
「ありがとう!スーザン!」
リュウイチの目から涙があふれ出る。
「……ありがとう……僕のお嫁さんになってくれるんだね……ほんとにありがとう……」
スーザンは泣いているリュウイチを、やさしく抱きしめた。
「……私こそありがとう、リュウ……」

 

THE END

 

 

 お読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

 『引越し記念』ということで?今回はお久しぶりな人々の登場です(笑)ERでは珍しく(^_^;幸せになってERを去っていったキャロル。ダグや双子ちゃんたちと、幸せに暮らしていてほしいものです(^^)

 また書けたらUPいたしますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

 

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