ＴＨＥ ＧＥＮＴＬＥ ＤＲＡＧＯＮ
ＳＩＤＥ ＳＴＯＲＹ １８ 「ＡＮＯＴＨＥＲ ”ＩＮＳＵＲＲＥＣＴＩＯＮ”」
今回のお話は、第９シーズン第３話『反乱 ＩＮＳＵＲＲＥＣＴＩＯＮ』のサイドストーリーです。原作の雰囲気や余韻その他もろもろ、すっかりぶち壊し間違いなしのお話なので、お読みになると、ご気分を害される方も多いのではと思います。「そんなのいつもじゃん。何今頃言ってんだ。この馬鹿（冷笑）」と思われる方だけ、どうぞお読みくださいませm(_
_)m
ＳＣＥＮＥ１
その日ロマノとリュウイチは、ＥＲからまわされた交通事故の患者の手術をしていた。
「ロマノ先生、ウィバー先生から電話です」
「オペ中だ。あとにしろ」
「そう言ったんですが、緊急の用事だそうです」
「わかった！今行く！ケリーのやつ！まったく何を考えてるんだか！おい、リュウ！遊ぶなよ！」
しばらくして、ロマノがオペ室に戻ってきた。
「リュウ、ここはいいからＥＲへ行け」
「え？」
「人手が足りなくて、ネコの手も借りたいそうだ。お前、ネコよりましだろう？」
「ええ、たぶん。何があったんですか？」
「カーターたちが、ストライキをおこしたらしい」
「…………」
絶句しているリュウイチを、ロマノは怒鳴りつけた。
「そんなにでっかい目をして突っ立ってないで、さっさと行け！」
ＳＣＥＮＥ２
「ルイス先生！」
「まあ、リュウ！応援に来てくれたの？よかった、助かるわ」
「いったいどうしたんですか？」
スーザンはため息をついた。
「デメロールをうってくれっていう患者が来たんだけど、プラットがヤク中だからって相手にしなかったら怒って、チェンの頭に拳銃を突きつけたの」
「ええっ！チェン先生は大丈夫だったんですか？」
「ええ。アビーがデメロールを注射したら、解放して出てったわ。機転をきかせて４００ミリうったから、病院を出たところで引っくり返って、警察に連れて行かれちゃった」
「誰も怪我はしなかったんですか？」
「幸いにもね。カーターが『こんな危ない職場じゃ働けない』ってケリーに金属探知機の設置と警備の充実を要求したんだけど、ケリーが例の調子で、予算がないからってはねつけたら、カーターが怒って職場放棄しちゃって……みんな外にいるわ」
「……僕ちょっと外に行ってきます。すぐ戻りますから」
ＳＣＥＮＥ３
「チェン先生、アビーさん、ルイス先生から聞いたんですけど、大丈夫ですか？」
「ええ、大丈夫よ」
「全然平気」
「えっと、あの、これ、お見舞いというか何というか……よかったら召し上がってください」
リュウイチは、ラウンジの自分のロッカーから持ってきた、小さな紙袋を差し出した。
「ありがとう。なあに？あら、クッキーよ、アビー」
「リュウのお手製ね。ありがとう」
アビーとチェンはかわるがわる、リュウイチを抱きしめてキスをした。
「じゃあ……」
立ち去ろうとしたリュウイチに、プラットが言った。
「パパが怖くて、ストライキはできないってわけか」
チェンがリュウイチを抱きしめてキスをしたのは、単にリュウイチがかわいいからということで、別に深い意味はなかったのだが、カウンティに来てまだ日が浅いプラットにはそれが理解できず、やきもちをやいたのだ。
「いいえ、別に。自分の意志です」
肩をすくめるリュウイチに、またかちんときたプラットがさらに言う。
「親切ごかしにクッキーなんか持ってきやがって。彼女はもう少しで撃たれるところだったんだ。お前にその気持ちがわかるのか！」
「……わかります」
「いい加減なことを言うな！」
「言ってません」
いきなりプラットは、リュウイチの頬をなぐりつけた。不意打ちをくらって、リュウイチは見事にしりもちをつく。要するにプラットは日頃から、いつもにこにこしている『女みたいなやつ』が気にくわなかったのであった。
チェンがプラットの腕を押さえた。
「やめなさい！プラット」
「何するの！」
「リュウ、大丈夫か？」
「ええ、大丈夫です」
リュウイチは立ち上がると、濃紺の手術着の上着をするりと脱いだ。プラットの前で身体を一回転させる。
「はい…………でたらめを言ってない証拠です」
「…………」
絶句しているプラットには目もくれず、服を着るとリュウイチは、カーターに向かって静かに言った。
「僕はストライキには参加しません……グリーン先生に、『いつもまず患者のことを考えなさい』って教わりましたから……。あなたにもそう教わりましたよ、カーター先生」
カーターは、ＥＲに戻っていくリュウイチを、無言で見送った。
「何だあいつ！あの傷跡がどうしたっていうんだ」
チェンはため息をつきながら言った。
「胸の傷は去年、虐待してた息子がＥＲで保護されたことを逆恨みした父親に、撃たれたのよ」
「お腹のは、子どもの頃、リュウの才能をねたんだピアニストに撃たれた傷だと思うわ。背中の傷は知らないけど」
「精神科の患者に、ボウガンで撃たれたんだ。ＥＲの縫合室の前でね……。知らなかったんだろうけど、撃たれそうになった人間の気持ちはわからないだろうってリュウに言うなんて、プラット、君は馬鹿だ」
ＳＣＥＮＥ４
「リュウ！誰になぐられたの。大丈夫？」
「ルイス先生……えーと、プラットに……たいしたことないです」
リュウイチは、カルテの束をより分け始めた。そこへウィーバーが通りかかる。
「リュウ、患者の選り好みはしないように。わかってるわね？……どうしたの、その顔」
「パパになぐられたんです。『最近たるんでるぞ』って。老後の面倒みてやらないんだから、あのクソ親父」
ＳＣＥＮＥ５
コマネズミのように走り回って治療をしているリュウイチを、廊下で、医学生のエレンが呼び止めた。
「ねえ、ウィーバー先生に怒られるわよ。勝手に治療しちゃ」
「え？」
「医学生でしょ」
「いいえ、僕はレジデントですよ」
「うそでしょう！私より２つも年上？」
「あなたがいくつなのか知らないけど、僕は２１。外科とＥＲの４年目のレジデント。名前はリュウイチ・ロマノ。リュウでいいよ」
「２１で４年目のレジデント？」
「飛び級したから」
「それにさっき、ロマノって言わなかった？ひょっとして、あのロマノ先生の息子？」
「そうだよ」
「だって全然似てない」
「よく言われる」
「あと、外科とＥＲのレジデントってどういうこと？どうしてふたつなの？」
「えーと、名前は？」
「エレン・ハーキンス」
リュウイチは、まだしゃべろうとしているエレンを手で制した。
「エレン、僕に治療のこと以外で質問があるんだったら、紙に箇条書きにしてください。今ちょっと忙しいので、あとでまとめて答えますから」
リュウイチはにっこり笑うと、あっけにとられているエレンを残して、治療室に入って行った。
ＳＣＥＮＥ７
受付でジュースを飲んでいるリュウイチが、スーザンにジュースのびんを掲げてみせた。
「ルイス先生、いかかですか？」
「そうね、私もちょっと休憩するわ」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。そっちはどう？手は足りてる？」
「ええ、何とか。先生の方は？」
「こっちも何とか大丈夫よ……あ、そうだ、リュウ。あなた、テノール歌手のフィリップ・バークって人知ってる？」
リュウイチはしばらく眉根を寄せて考えていたが、やがてうなずいた。
「ええ、知ってます。でも、随分前に病気で引退したから、生で聴いたことはないんですけれど」
「ここへ運ばれてきてるのよ」
「えっ！そうなんですか！」
「ハンティントンの末期でね。お母さんが付き添ってるんだけど……」
「亡くなった義理の父が、一緒に仕事をしたことがあったみたいで、『難しい病気のせいで引退したらしい』って言ってたんですが……ハンティントンだったんですね」
リュウイチは、治療室にバークを訪ねた。
「えーと、僕、レジデントのリュウイチ・ロマノといいます。実は僕の亡くなった義理の父がピアニストだったんですが、バークさんとお仕事をさせていただいたことがあったらしいんです。なので、ちょっとお会いしたくて……」
付き添っている母親の顔がぱっと輝いた。
「まあ！そうなの！会ってやってちょうだい」
リュウイチは、バークののど……かつて朗々とした美しい声を生み出していたそののどに管が入れられ、レスピレーターにつながれているのを、痛ましげにながめた。そしてもう動かない手をそっと握り、
「初めまして、シュウ・タカミザワの義理の息子のリュウイチです。父はあなたの引退をとっても残念がってました。……お会いできて光栄です」
と言って、その額にキスをした。
リュウイチは、スーザンを呼び止めた。
「バークさん、亡くなられたんですね」
「ええ……」
「……バークさんのお母さんは、どこにいらっしゃるんでしょう」
「霊安室よ」
「僕、お葬式でピアノを弾かせていただけないか、お願いしてみようと思って……」
ＳＣＥＮＥ８
「おい、リュウ。ストライキはもう終わったんだろう。ぐずぐずしてないで、外科に戻って働け……その顔、どうしたんだ」
「ストライキに参加しようとしたら、ウィーバー先生になぐられたんです。『診療部長の子どものくせに何を考えてるの』って。まったく……なぐられるし、こき使われるし……パパの息子をやってると、ほんとにろくなことがありませんよ」
ＴＨＥ ＥＮＤ
お読みいただきありがとうございましたm(_
_)m気分を害された方、ごめんなさいm(_ _)m
また書けたらＵＰいたしますので、よろしくお願いいたしますm(_
_)m